ついに始まったフェラーリ特有の情報操作。バスールは悪い流れを止められるか【F1チーム代表の現場事情】
大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、カナダGPでのフェラーリ代表フレデリック・バスールに注目した。
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今シーズンのこの連載コラムでは、続けて同じ人物を扱うケースが多くなっている。序盤には、ドライバー交代問題を抱えたレッドブルのクリスチャン・ホーナー、今回は、プレッシャーが高まりつつあるフェラーリ代表フレデリック・バスールだ。
スペインGPの直後に書いた前回のコラムでは、バスールがわずかながらプレッシャーを感じていること、ルイス・ハミルトンがマシンを快適に走らせられるようサポートする必要性について取り上げたが、その後、イタリアのメディアがバスールを強く批判する記事を出した。正直言って、今の騒動が起きることは予想外だった。
記事が出たタイミングを見れば、カナダGPの週末に最大の影響を与えることを狙ったことは明白だ。タイムゾーンの関係でバスールとフェラーリが木曜朝に目にすることとなったイタリアの主要紙2紙のそれぞれの記事には、チーム代表のポジションへの疑問が呈されていた。
一紙はバスールの将来が不確かであると主張、もう一紙は、カナダ、オーストリア、イギリスの次の3戦が決定的に重要であると述べていた。
ドライバーの不満についても言及されていたが、木曜日にはルイス・ハミルトンもシャルル・ルクレールも、バスールをかばう姿勢を示し、ハミルトンは、バスールの存在が自分がフェラーリに移籍した大きな理由のひとつであると語った。昨年ハミルトンにシートを奪われたカルロス・サインツですら、フェラーリにとってバスールが適任者であるとして、彼を支持した。
チームはこの状況に関与したがらず、記事の内容を否定するのではなく、コメントする価値がないと感じていると述べるにとどまった。それは非常に強い反応のようにも思える一方で、フェラーリが記事は誤っていると言っていないという解釈もできる。
バスール自身が金曜日にモントリオールでメディアに直面したとき、彼はかなり怒っていた。彼はすぐさまふたつの報道機関とその記事を書いた記者たちを批判し、すべてのメディアを同一視しているわけではないことを明確にしつつ、自身が非倫理的だと感じている報道に対して反撃した。
フェラーリでのこれまでの在任期間において、バスールはチームからメディアへの情報漏洩を非常にうまく防いできた。それまでフェラーリでは、不満を抱くチームメンバーが不安定さや変化を引き起こそうとして定期的に情報を外部に出していた。フェラーリは本質的にイタリアのナショナルチームであり、イタリアの報道機関は常に可能な限りの情報を得ようとしているため、そういうことが起きたのだが、バスールが来てからは、それとは対照的な状況が保たれていた。
しかし今回、彼自身がそうした報道の中心になってしまったという事実は、チーム内に潜在的な弱点があることを示しているかもしれない。バスールは、さしあたり、金曜日の会見において、こうした報道はチームに損害を与え、集中力を削いでいると主張、チームが成功する助けにはならないと述べた。
バスールとしては、カナダで良い初日を過ごしてから記者会見に臨みたかったはずだが、ルクレールがFP1で激しいクラッシュを喫し、シャシーを損傷して、大きく出遅れてしまった。そのため、この時のバスールが苛立っていたとしても仕方がなかった。
フェラーリは、予選で競争力を見せながら、Q3でルクレールがミスを犯した。決勝では、ハミルトンが好調なスタートを切ったにもかかわらず、ウッドチャックを轢いてしまい、マシンに損傷を負い、良い結果を出すチャンスが消えてしまった。
それでもフェラーリは堅実にポイントを獲得し、トップとの差もさほど大きかったわけではない。しかし5位と6位という結果では批判者たちの声を黙らせるには不十分だ。
バスールは否定的な記事を書いた記者たちと対話し、責任を取らせようとするだろう。しかしフェラーリで再び情報漏洩が始まってしまった以上、結果がすぐさま改善しない限り、その流れを止めることは難しいだろう。