同じPUモードで追い詰めた“脅威”ハジャーと、チームからの信頼に繋がる1ポイントを獲得した角田:ホンダ/HRC密着
2025年F1第6戦マイアミGPの32周目、レース審議委員会は角田裕毅(レッドブル)に、ピットレーンのスピード違反で5秒のタイムペナルティを科した。
このとき角田裕毅の後方にいたアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)との差は5秒以上あり、ポイント獲得のためのライバルは、そのハジャーの1秒以内で追い上げていたエステバン・オコン(ハース)になるのではないかと予想していたと、ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)は振り返った。
「ハジャーがどこまでオコンを抑えてくれるのかと思って見ていたのですが、ハジャー自身がレッドブルにとって脅威の存在になりました」
44周目になると、ハジャーとオコンの差は1秒以上に広がり、46周目からは角田とハジャーの差が5秒を切っていった。そのため、角田はレースエンジニアのリチャード・ウッドに何度もエンジンモードに関して無線を入れた。パワーアシストをもらって、ハジャーとの差を広げたかったからだ。
折原GMはこう語る。
「ドライバーとしては少しでも速く走りたいので、そのモードを使いたいと訴えるのですが、そうするとフィニッシュする前にバッテリーが空になってしまうので、トータルで考えると遅くなります」
予選のように1周だけ速く走るためだったら、1周の間にバッテリーが空になってもいいから使用可能な電気エネルギーを使うのだが、レースのように連続して周回する場合は、空にならない範囲で使いながら電気を溜めて、また使うということを繰り返す。ただし、レースではバトルがあるため、オーバーテイクしたり防御するためにバッテリーには常に貯金を残しておく。
しかし、角田の場合は前後にバトルするドライバーがおらず、かつ5秒以上の差をハジャーにつけなければならないため、バッテリーに電気を溜めておく必要はなくなっていた。
そこで、HRCのエンジニアから最適なモードとそれをいつから使用するのかという指示がウッドに伝えられ、ウッドが角田に無線で指示したと折原GMは言う。
「具体的な周回数は教えられませんが、『残り何周になったら、このモードを使ってほしい』と伝えていました。そのモードはタイムペナルティなどを科されたときに使うモードで、チェッカーフラッグに向けて徐々にエネルギーを使っていくモードです。またペナルティを科されたときだけでなく、前を走るドライバーにタイムペナルティが出たときに、そのタイムのなかに入ってフィニッシュするときにも使うモードです」
これは、昨年のアメリカGPでマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がランド・ノリス(マクラーレン)にオーバーテイクされた後、ノリスに5秒ペナルティが出されたときに、5秒以内でチェッカーフラッグを受けるために出されたモードと基本的な同じだった。
異なっていたのは、今回の相手が異なるパワーユニットを搭載するライバルではなく、同じホンダRBPTを搭載する姉妹チームのレーシングブルズだったことだ。レース終盤、同じようなペースで走る2台。レース後、レッドブルで仕事をしている折原GMが、レーシングブルズにいるHRCのエンジニアに確認したところ、同じようなモードを使用していたという。
「後ろを走るレーシングブルズも同じような考えで、ハジャーに同じようなモードを使えと指示していたようです」
つまり、角田が最後の最後に逃げきれたのは、HRCから伝えられたモードのおかげというよりも、角田自身の踏ん張りだった。ただし、それを裏を返せば、角田を最後まで追いつめたハジャーの走りもまた称賛に値するということになる。
そんな厳しいレースで、最後に5秒以上の差に広げてフィニッシュした角田の走りを折原GMは次のように称えた。
「本来であれば、1ポイントで喜んではいられないんですが、週末の走り出しからペースにかなり苦しんでいたという状況を考えると、ポイントフィニッシュしたことは、チームから信頼を得ることができたという面でよかったと思います」
次のエミリア・ロマーニャGPの舞台は、マイアミと異なるコース特性を持つイモラ。ホンダRBPT製パワーユニットを搭載する4台が、マイアミGPよりも上のポジションで戦ってくれることを折原GMは願っていた。