2025年F1は4強の優勝争い、ルーキー参戦で勢力図変化を予想。ホンダの新挑戦も応援【ベルガーインタビュー】
1984年にデビューを果たし、1997年をもって現役を引退するまでF1ドライバーとして活躍。その後はBMWのモータースポーツディレクターやスクーデリア・トロロッソのチームオーナーを経て、DTMドイツツーリングカー選手権の代表を務めるなど、レーシングドライバーの経験を活かし、モータースポーツの発展に尽力をしたひとりのゲルハルト・ベルガー。
元F1ドライバー、チームオーナーとして長年に渡り携わった功労者に、開幕を迎えた2025年シーズンのF1について聞いた。
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──あなたがDTMの代表を務めていたころにサポートレースとして開催されていた旧F3ヨーロッパ選手権は非常にレベルが高く、現在F1ドライバーのマックス・フェルスタッペン、ランド・ノリス、シャルル・ルクレール、ジョージ・ラッセル、ランス・ストロール、アレクサンダー・アルボン、(現在はWEC世界耐久選手権で活躍するアントニオ・ジョビナッツィ、アントニオ・フォコ、ミック・シューマッハー)など、非常に強く才能あるドライバーが切磋琢磨していることを当時の関係者は非常に興味深く見ていましたね。若き素晴らしい彼らは今のF1で大活躍をしていますが、彼らの今季をどう予想しますか?
ゲルハルト・ベルガー(以下ベルガー):例年の優勝候補はシーズン開始前からフェルスタッペンと予想されていたが、その勢力図が変わり、マクラーレンのノリスになったことは今季が初めてではないだろうか。そして、コンストラクターは近年着実にチーム力を上げてポテンシャルアップに成功したマクラーレンとレッドブルの争いになるのではないかと私は予想している。
その一方で、メルセデス対フェラーリの対決も激しいものになり、この4チームが優勝争いをすると予想している。いつも同じ1〜2チームが優勢なのではなく、優勝争いが激化するということは、今季のF1はさらに興味深いものになるということだ。また、フェラーリにはルイス・ハミルトンが加入して注目を浴びているが、ふたりのナンバー1がいるフェラーリのチームメイト同士の戦いは、非常に興味深くなるに違いない。
──今季は勢いのある元F3出身者に加え、アンドレア・キミ・アントネッリ、ジャック・ドゥーハン、オリバー・ベアマン、アイザック・ハジャー、ガブリエル・ボルトレートといった数多くの若手ドライバーの参戦に注目が集まっていますね。
ベルガー:つい最近まで若手だと思っていた元F3出身ドライバーらは、今やもうすっかりベテランになった。私がいちばん注目しているのはアントネッリだ。かつてのフェルスタッペンのような非常に若くてデビューするドライバーが、初年度を通してどう成長していくのかということにも関心があるし、ルクレール、ノリス、ラッセル、フェルスタッペンといった頂点のドライバーたちにどう食らいついていくのか、どう挑むのか、という点にも注目している。
──また、若い新人ドライバーがデビューしていくなか、F1のシートがなかなか得られず、まったくカテゴリーの異なるDTMで歯を食いしばって頑張ったリアム・ローソンが、遅咲きながらやっとF1のレギュラーシートを獲得しましたね。
ベルガー:まったくドライブしたことのないGT3マシンでDTMに参戦することになった彼は『なぜ俺がDTMに?』と、恐らく不甲斐なさを感じたに違いない。DTMに来た時点では、才能あるレッドブルの数ある育成ドライバーのひとりに過ぎず、まだF1には遠く届かない存在だった。
私はヘルムート・マルコ(レッドブルのモータースポーツアドバイザー)に「彼をもう少し試してみよう。彼はとても速く、ポテンシャルを備えている」と何度も話し合って決めたDTMへの起用だった。ちょうど、その年にF1のシートを失ったアルボンもDTMに起用したのだが、彼だって『F1ドライバーの俺がなぜDTMなんかを走らなくてはいけないんだ』と本心では思っていたに違いないだろうね。
私の経験上、ひとつだけではなく、さまざまカテゴリーのレースに出場し、プロドライバーとして自分の引き出しを増やすことの大切さを伝えたかったんだ。その経験は必ずプロのレーシングドライバーとしての多くの場面で自身を助けてくれる。そのことはマルコだってよく知っている。
──レッドブルで一時は放出寸前にまで追い込まれたローソンに、あなたやマルコは、いわば『最後のチャンス』を与えて賭けてみたのですね。
ベルガー:あのとき、どんなカテゴリーであっても諦めない彼のガッツを私とマルコは観ていた。ドライバーは『本物』として、どんなカテゴリーであっても速さを証明しなければならない。その『最後のチャンス』でしっかりとポテンシャルを見せたし、直接的ではなくても、GT3マシンをドライブして得た経験やノウハウは必ずF1でも活かせるはずだと思う。
ローソンは今季のF1ではフェルスタッペンのチームメイトになったことで、必ずしも容易なシーズンにはならないだろう。だが、その難しいシーズンにどうポテンシャルを発揮するのか……興味深く見守るよ。
──恐らくレッドブルは、ローソンがフェルスタッペンをサポートする“ナンバー2”の役割を期待しているのかと予想しますが……。
ベルガー:いや、必ずしもそういった訳ではないだろう。これだけは言えるが、ローソンにはすべてのチャンスが与えられている。それを活かすも殺すも彼次第だ。
──そして、一度は活動終了を発表したホンダが2026年にはアストンマーティンと組んでF1に継続参戦することになりました。また、その一方で来年はアウディとキャデラックの参入も決定しており、新たなF1の時代に期待が高まります。
ベルガー:アウディとキャデラックに戦闘力が整うにはしばらく時間が必要になるが、アストンマーティンはきっと優勝争いに加わり、トップチームを脅かす存在になると思っている。エイドリアン・ニューウェイはもちろん、彼とそのまわりの実力者たちのアストンマーティン加入は優勝争いをするチームになる可能性を秘めた大きな要因のひとつになることは間違いない。そのため、今季のニューウェイとアストンマーティンの仕事にも注目している。
──ホンダがレッドブルと組んで、フェルスタッペンらとともに素晴らしい活躍をみせたと思ったら、突然の活動終了発表であなたも非常に残念がっていましたね。アストンマーティンのパートナーとしてホンダがふたたびF1に参戦することは、元ホンダドライバーとして喜ばしいニュースですか?
ベルガー:ホンダは私がドライバーだったころからいつもコンペティティブだった。もちろん、ひさびさにF1へ戻ってからの数年は苦労の連続だったけれど、ホンダスピリッツは私の時代からひとつも変わっていなかったし、アストンマーティンとの新たな挑戦においてもスポーツマンシップに則った誠実なチーム体制は変わることがないと思っている。
また、お互いに歳を重ねたが、今もパドックで私を担当してくれていたホンダエンジニアの『タナベサン(田辺豊治氏)』と会えていることは本当に嬉しい。彼は私の現役時代を支えてくれた、もっとも信頼を置いたエンジニアのひとりだ。彼のためにもアストンマーティンとの新たなホンダの挑戦を強く応援している。