『F1 75 Live』現場レポート:トップのザウバー登場から興奮の渦に。不手際もありつつ、観客を熱狂させた初の合同発表会
F1は75周年記念の年である2025年に、史上初めて、全チームが参加するローンチイベント『F1 75 Live』を開催した。2月18日、ロンドンのO2アリーナで行われたこのイベントに出席したF1ジャーナリストのクリス・メッドランドが、会場の雰囲気、イベントの成功した点と課題などを伝える。
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長年、リバティ・メディアは、チケットを販売して一般の人々を集めて行うF1シーズン開幕イベントを実施したいと考えていた。世界選手権75周年の今年は、それを初めて試すための絶好の機会だった。
ファンからの関心は非常に高く、世界中の人々が、このイベントに参加するためにロンドンまで足を運ぼうとした。O2アリーナは非常に大きな会場だが、それでも多くのファンがチケットを入手することができずに落胆した。
リハーサルの様子を聞いていたので、どれだけ華々しいイベントになるのかは、ある程度予想していた。そして、火曜日の早朝にO2アリーナに到着した時、ファンがこのイベントをどれだけ楽しみにしているのかを感じた。ほとんどのドライバーたちはこの日、ロンドン市内を移動し、レッドカーペットに登場したが、それよりとても早い時間に大勢のファンが、ドライバーたちの姿を一目見ようと、現地で待機していたのだ。
イベント前にはメディアセッションが行われ、フェラーリのふたりを除く18人のドライバーたちが、順番にメディアセンターに登場した。まるでグランプリ・ウイークエンドの木曜日のような雰囲気だった。ドライバーのコメント自体も、グランプリ前の木曜日のようで、彼らは口々に「何が起こるのか本当のところは分からないが、とても楽しみにしている」という内容の言葉を発していた。
「何が起こるのか本当のところは分からない」というのは多くのメディア関係者の心情でもあった。このイベントにファンがポジティブな評価を下すという確信を持てずにいたのだ。
イベントのプログラムには、F1マシンのカラーリング発表だけでなく、ミュージシャンのライブも含まれていた。だが、そのラインアップは最高とはいえず、とたえばヘッドライナーのテイク・ザットは、人気絶頂期のバンドではないなど、盛り上がりに懸念があった。
しかしそういった心配を、最初に登場したマシン・ガン・ケリーのパフォーマンスが吹き飛ばした。エネルギッシュな演出が、その場の雰囲気を一気に盛り上げ、会場に集まったファンたちの興奮が高まった。トップバッターのキック・ザウバーのニコ・ヒュルケンベルグとガブリエル・ボルトレートが登場すると、驚くほど大きな歓声が上がり、観客のボルテージが上がっているのが感じられた。ドライバーたちを直接見て、彼らの声を聞くという貴重な機会に、ファンたちは明らかに興奮し、新鮮なイベントによって大いに盛り上がっていた。
プログラムは、歴史的なコンテンツ、ニューマシンのリバリー、ドライバーのインタビューがバランス良く組み合わされ、それを司会者のジャック・ホワイトホールが巧みにまとめていた。彼はドライバーやチーム代表、さらにはイベント全体をネタにすることを許されており、そのジョークは概ね受けていた。
イベント序盤は持ち上がりが持続したが、3、4チームの出番を終わるころには、少し新鮮さが失われ、会場の興奮は薄れ始めた。4分間の映像が流れた後、マシンがステージ奥から登場し、その後、チームメンバーのインタビューが行われるという流れが観客にはマンネリに感じられたのだろう。
ショーの進行を時間どおりに行うために、ドライバーとチーム代表者が発言する時間がとても短いチームもあったが、それでもほとんどのドライバーの声を聞くことができたのはとても良かったと思う。そんななかで、レッドブルはドライバーがコメントをする時間を設けておらず、ディフェンディングチャンピオンのマックス・フェルスタッペンの声を聞くことはできなかった。それは、このイベントにおいては、大きな欠落だった。さらに残念だったのは、ショーの序盤に、フェルスタッペンが観客から大きなブーイングを受けたことだ。
クリスチャン・ホーナーが登場した際のブーイングはそれよりさらに大きく、そういう声をかき消そうと努力するファンもいたものの、ショーの後半に一時期、雰囲気が少し悪くなった。
FIAやピレリについて取り上げたコーナーがあり、それもファンの興奮を削ぐことになった。高額なチケットを購入したファンにとっては、聞きたい話でも、聞く必要がある話でもなかっただろう。
停滞した空気が一変し、興奮が復活したのは、終盤、フェラーリ・レッドを身にまとったルイス・ハミルトンがステージに登場した瞬間だった。
フェラーリの出番が終わり、マクラーレンのリバリーが公開されて、全チームの紹介が終わると、テイク・ザットがステージに登場した。そのライブの時間帯に、観客の半数が帰ってしまった。運営側は、もう少し良いプログラムを用意して、会場のエネルギーを保つ努力をすべきだっただろう。
なぜなら、そのライブの後に、10台のマシンと20人のドライバーがステージに勢ぞろいするという素晴らしい企画が用意されていたからだ。しかし運営側がそうしたイベントスケジュールを明確に伝えていなかったために、そのころには多くのファンが帰ってしまい、空席が目立っていた。
イベントを振り返ってみよう。ドライバーを生で目にしたファンがどれだけ興奮していたかを見て、グランプリ以外にドライバーに会える機会を彼らがどれだけ欲しているかが分かった。
完璧とはいえず、改善の余地は十分あるが、イベントの進行自体はうまく管理されており、新シーズンの幕開けを象徴する、素晴らしい瞬間を演出できたと思う。全体的に見て、私はこのイベントは成功だったと断言する。グローバルスポーツであるF1は、こういった取り組みを行うべきであり、今後もこのようなイベントが開催されることを願う。