2024.12.28

【F1チームを支える人々:ジョック・クリア/フェラーリ】王者たちのサポート役で名を馳せた伝説のエンジニア


2024年F1モナコGP 優勝したシャルル・ルクレール(フェラーリ)とシニアパフォーマンスエンジニアのジョック・クリア
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 F1チームには多数の人々が関わり、さまざまな職種が存在する。この連載では、普段は注目を浴びる機会が少ないチームメンバーに焦点を当て、その人物の果たす役割と人となりを紹介していく。今回取り上げたのは、フェラーリのシニアパフォーマンスエンジニアおよびフェラーリ・ドライバー・アカデミーの責任者を務めるジョック・クリアだ。

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 F1の世界では経験が非常に重要だ。極めて高いプレッシャーがかかるこのスポーツの性質を理解することが、過酷なスケジュールとそれが突きつける要求に対処することの助けになるからだ。

 ジョック・クリアは、F1で30年以上にわたった働いてきたベテランだ。トップチームで複数のワールドチャンピオンや評価の高いドライバーたちと働いた経験を持ち、それを生かして、フェラーリが久々のタイトルを獲得するための助けになろうとしている。

フェラーリのシニアパフォーマンスエンジニアのジョック・クリア
2022年F1アゼルバイジャンGP フェラーリのシニアパフォーマンスエンジニアのジョック・クリア

 イギリス人のクリアは、スコットランドの大学に通い、当時は、別のスポーツで全く異なるキャリアを歩むことが予想されていた。彼は才能あるラグビー選手で、イングランド代表として国際レベルでプレーする機会があったほどなのだ。

 工学の学位を取得した後、彼の友人がクラシックF1カーをヒストリックイベントで走らせる際に手伝いをしたことで、クリアはモータースポーツに興味を持つようになった。大学卒業からわずか1年余りで、クリアはローラ・カーズの人員募集に応募し、当時、ラルースの設計を担当していたF1プロジェクトで働き始めた。

 クリアの才能は、他チームにも注目され、1990年シーズンを前に、ベネトンのコンポジット部門に加入。2年在籍した後、レイトンハウスF1チームでシニアデザイナーの役職に就いた。

 異なるチームで経験を積み、ロータスに移籍。そこではローラ時代の上司と再会し、シニアデザイナーとして働いた後、ジョニー・ハーバートのレースエンジニアになった。

 タイミングが悪く、ロータスは衰退期にあったが、クリアはそこで新たな専門知識を習得した。それがきっかけで、彼はウイリアムズでレースエンジニアのポジションを得ることになった。当時ウイリアムズはグリッド上で最も競争力が高いチームのひとつだった。最初はデイビッド・クルサードと組み、その後、ジャック・ビルヌーブとともに働くことで、クリアの存在はよく知られるようになった。1997年にビルヌーブはドライバーズチャンピオンシップを獲得。その後、1年余りでビルヌーブとともにクリアはBARに移籍した。

ジャック・ビルヌーブ(BAR)とレースエンジニアのジョック・クリア
2002年F1モナコGP ジャック・ビルヌーブ(BAR)とレースエンジニアのジョック・クリア

 1990年代に多くの移籍を経験した後、クリアはビルヌーブとともにBARに落ち着いた。チームがホンダ、ブラウン、最終的にメルセデスになるまで、クリアはブラックリーでの約20年間に、ルーベンス・バリチェロ、ミハエル・シューマッハー、ルイス・ハミルトン、ニコ・ロズベルグのレースエンジニアを務めた。

ルイス・ハミルトン(メルセデス)とレースエンジニアのジョック・クリア
2014年F1日本GP ルイス・ハミルトン(メルセデス)とレースエンジニアのジョック・クリア

 BAR、ホンダ、そしてメルセデス時代で厳しい時期を過ごした後、メルセデスが絶好調だった2015年にクリアがチームを離脱するという選択をしたのは、やや意外なことだった。しかし、彼がそれまで働いたことがないもうひとつのビッグチーム、フェラーリから声がかかったのだ。

 クリアがマラネロ行きを決断したのは、ブラックリーでのサイクルを完了したと感じたからだった。彼はチームがついに安定し、成功するのを見届け、フェラーリのシニアトラックサイドエンジニアリンググループの一員としての役割を担う機会を引き受けたのだ。

 さまざまなチームや役職で豊富な経験を積んできたクリアは、最近ではその経験を生かして、若い世代のドライバーを支える仕事もしている。2019年にモナコ出身のシャルル・ルクレールがフェラーリのレースシートに就いた際に、クリアは彼が成長するためのサポートをした。その成果が認められ、2021年以降、フェラーリ・ドライバー・アカデミーでの役割が拡大されることになった。

シャルル・ルクレール(フェラーリ)とジョック・クリア
2019年F1中国GP シャルル・ルクレール(フェラーリ)とジョック・クリア

 F1チームのシニアパフォーマンスエンジニアの役割を果たす一方で、クリアは2024年からは、フェラーリ・ドライバー・アカデミー全体を任されることになった。彼はいま、F1を目指すすべての若い才能を統括する立場にある。その成果はすでに明らかで、ルクレールだけでなく、オリバー・ベアマンの印象的なデビューレースも注目され、彼は2025年シーズンにハースで走ることが決まった。

オリバー・ベアマン(フェラーリ・リザーブドライバー)とシニアパフォーマンスエンジニアのジョック・クリア
2024年F1アメリカGP オリバー・ベアマン(フェラーリ・リザーブドライバー)とシニアパフォーマンスエンジニアのジョック・クリア

 クリアはF1における幅広いキャリアのなかで、多くの役割を果たし、チームに関する豊富な知識を持っている。それを考えれば、彼が次世代の新人ドライバーを育て、彼らが成功するための最高のチャンスを提供するのに必要な人間として適任であるといえるだろう。彼はF1の最大手チームのいくつかで、上級エンジニアとして活躍してきた。次にさらなるステップアップを遂げるとすれば、その役割はチーム代表ということになるかもしれない。



(Chris Medland)

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