【】改めて証明した角田裕毅のポテンシャルの高さ。セナを彷彿させるボルトレートのF1昇格【中野信治のF1分析/第21戦】
11月13日
インテルラゴス・サーキットを舞台に行われた2024年第21戦サンパウロGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季8勝目、自身通算62勝目を飾りました。
今回はスプリントまで苦戦が続くも雨の予選で3番手、決勝も表彰台の可能性が垣間見えた角田裕毅(RB)。そして来季F1デビューが決まったガブリエル・ボルトレートについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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サンパウロGPの裕毅は素晴らしい走りを見せてくれました。ドライコンディションとなったスプリント予選で失速し18番手、続くスプリントは予選と決勝に向けたデータ収集に充てたこともあり15番手となりましたが、土曜日に行われる予定だった予選は荒天によりディレイに。
決勝日の午前中に行われた予選は、雨脚こそ弱まりを見せるもウエットコンディションとなり、赤旗中断5回と大荒れとなりましたが、そんななかでQ3に進出。Q3でも2回赤旗が出るという難しい状況となり裕毅もターン4でスピンを喫する場面もありましたが、最後のアタックでは素晴らしい集中力を見せて、予選自己最高位の3番手タイムを叩き出しました。
フリー走行からスプリントまで「ずっとクルマが奇妙なフィーリングを抱えていた」とのことで、これがウエットコンディション下でどう影響するのかが少し心配ではありましたが、幸い雨だとクルマの動きも問題ないように見えました。また、今年のサンパウロGPを前にインテルラゴス・サーキットは全面的に再舗装され、その影響か雨のセッションでは非常に滑りやすい状況になり、多くのドライバーがかなり苦しんでいたと思います。
そんな一周をまとめきることが難しいコンディションでの3番手は本当に見事でした。この予選3番手が裕毅にとって、裕毅の将来にとってどのような影響を及ぼすのかは分かりません。ただ我々日本人にとって、日本人ドライバーがF1で予選3番手に入ることは、私は快挙だと思っていますし、感動しました。
予選後、同日中に行われた決勝でも裕毅は完璧な仕事ぶりを見せてくれましたし、雨量増加に伴う赤旗中断までは流れが裕毅に来ており、間違いなく表彰台を狙えるところにはいたと思います。ただ、このいい流れは最後の最後までは続いてくれませんでした。
せめてセーフティカー(SC)からの赤旗導入が、ウエットタイヤの裕毅がインターミディエイト(浅溝)を履くライバルを次々と抜いて前に出た後であれば……という感じでしょうか。ですが、これもレースですね。
もし、赤旗が入ることがなければ、裕毅がトップまで浮上していたかもしれません。あの状況下でウエットタイヤとインターミディエイトタイヤのタイム差は数秒単位であったと思います。それゆえに、インター勢を立て続けにオーバーテイクする姿は見てみたかったな……とは考えてしまいますね。
ただ、これが裕毅にとって優勝を狙える最後のチャンスではないと思います。逆に、今回のサンパウロGPで「角田裕毅はここまでやれるんだ」というところを改めて証明することができました。予選だけではなく決勝でもしっかりと順位を守って、見事な走りを見せてくれていたので、今回のレース結果でネガティブになる必要はないと思います。サンパウロGPを経たことで、流れが裕毅に向いたかなというふうに感じました。
■アクシデントが多発したターン3とターン12
今回は予選と決勝が雨だったこともあり、両セッションでアクシデントが多発しました。なかでもターン3(左高速コーナー)とターン12(左低速コーナー)でのアクシデントが多い印象です。
ターン3は昔、雨が降ると川ができてしまうコーナーでしたが、今年は川はそれほど見られませんでした。ただ、今のターン3には1本だけ水が少ないラインがあるのですが、その1本のラインを外すと非常にスリッピーな水たまりがあります。さらに、あのターン3は、ターン1から一気に下って迎える低速のターン2から、急加速しながら迎えるコーナーです。
ターン3の先には長い直線があるので、ドライバーとしてはアクセルを踏んでいきたいところ。ただ、加速しながらコーナリングするかたちとなるため、リヤのグリップを失う確率も少し高めという点がターン3の難しさでもあります。
ドライバーはスロットル、リヤタイヤに全神経を集中し、リヤが出る(滑る)か出ないかというところを繊細に感じながらスロットルを開けていくのですけど、ターン3で踏めるか踏めないかで次のストレートのスピードが変わり、その分タイム差がはっきりと出てしまいます。
晴れであれば全開で走れるコーナーですが、雨の際にはスロットルを合わせこみながら迎えるコーナーとなるため、その分きわどく、難しいコーナーとなるのです。
そしてターン12は上り坂を経て平らなエイペックスを迎える左コーナーです。そのため、上り坂を上りきったところで一瞬クルマが軽くなり、思わずブレーキロックしてしまうというシーンを幾度と目にしました。
これはブレーキングの瞬間にクルマが浮き、ブレーキの利き方が変わってしまうためです。また、意外と路面のミュー(摩擦係数)が低く、特に雨が降ると止まらないことも起因していますね。
このターン12もドライではそこまで難しいコーナーではないのですが、雨が降ると特に難しくなります。ブレーキの限界とドライバーの感覚のズレがミスを引き起こしてしまう感じですね。
■FIA F2ランキング首位、ボルトレートのF1昇格
さて、サンパウロGP明けにキック・ザウバー/アウディがFIA F2ランキング首位につけるガブリエル・ボルトレートの来季起用を発表しました。
ボルトレートは2023年のFIA F3タイトル獲得を経て、今季はFIA F2に参戦しています。彼のFIA F2での活躍は、先んじてF1デビューを飾ったオリバー・ベアマン、フランコ・コラピントよりも遥かに輝きを放っていました。
そんなボルトレートのF1昇格はある意味順当と申しますか、今季のFIA F2ドライバーを見ても「ボルトレートは昇格するよね」と皆が納得するような存在ですので、私も彼のF1での活躍が楽しみですね。
ドライバーとして、非常に強いという印象です。どんなグリッドポジションからスタートしても追い上げる力を持っていますし、好機を掴んだとはいえ最後尾からFIA F2優勝を飾ったこともあります。それは接戦に強く、メンタルが強いドライバーだということを意味しています。
また、F1にとっては久しぶりのブラジル人ドライバーになります。彼のFIA F2のヘルメットは母国の英雄アイルトン・セナを彷彿とさせるデザインですが、彼自身もセナを彷彿させる雰囲気がありますね。彼の話題性、速さ、強さは、F1に来ても面白い存在になると思います。
何よりも、ボルトレートを含め新人がどんどんF1へ昇格することはF1にとって、F1を目指す若手にとって好影響を与えると考えています。少し前まではF1直下でタイトルをとっても、しっかりとした成績を残してもF1には上がれないという、夢があるようで夢はない。夢があったとしてもその世界に入り込めるのはごくわずかな機会を得れた者だけでした。
そういう時期を経て、昨今次々とF1昇格を果たす若手が増えることは、非常にポジティブだと思います。私個人もこうなることをずっと願っていたこともあり、ようやくこの流れがやってきたという思いです。まだまだ今季のF1は続きますが、2025年シーズンの開幕も、楽しみにになってきたなと感じています。
【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano まとめ:autosport web)
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