F1コラム:ドリームチームを構築しつつあるアストンマーティン。最後のピースは優れたドライバーラインアップ
ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、エイドリアン・ニューウェイ加入が決まり、今後の改善が期待されるアストンマーティンにとって、最大の弱点はドライバーであるとの見解とその理由について記した。
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アストンマーティンF1チームは、F1史上最高のデザイナーでありテクニカルディレクターとして広く知られるエイドリアン・ニューウェイと、マネージングテクニカルパートナーとしての契約を結び、チームオーナーのローレンス・ストロールは、ニューウェイに2.5パーセントの株式も提供し、共同オーナーのポジションも用意した。
現在65歳のニューウェイは、ウイリアムズとマクラーレンで世界タイトル獲得マシンを設計した後、レッドブルに移籍。18年間在籍するなかで、彼が手掛けたマシンは、2010年以降、セバスチャン・ベッテルを4回、マックス・フェルスタッペンを3回、チャンピオンの座に導いた。
ニューウェイは、そのF1キャリアのなかで、まだ達成していないことのひとつをアストンマーティンへの移籍で実現することになる。それは2度のF1チャンピオン、フェルナンド・アロンソと一緒に働くことだ。また、アストンマーティンは2026年からホンダと提携するため、ニューウェイはともにレッドブルで大きな成功を成し遂げたパワーユニットマニュファクチャラーとの関係を続けることができる。
ローレンス・ストロールは大金をかけて才能あるエンジニアたちを大勢獲得し、ニューウェイは彼らのリーダーとなる。フェラーリからはエンリコ・カルディレ、メルセデスからはアンディ・コーウェルやエリック・ブランディン、ザウバーからはルカ・フルバットなどがアストンマーティンへの移籍を決めた。
ニューウェイが大勢のエンジニアをまとめて強力な組織を作り上げるまでには、ある程度の時間はかかるだろう。だがアストンマーティンの今後の技術体制には大きなポテンシャルがある。
強化が進むアストンマーティンにおいて、最も脆弱なエリアはどこか。それはドライバーであると言わざるを得ない。
43歳のフェルナンド・アロンソは現役F1ドライバーのなかで最年長だ。チームメイトのランス・ストロール(ご存じのとおりチームオーナーの息子だ)は、F1キャリアの8年間、すべてのチームメイトに敗れてきた。
アロンソは、アストンマーティンに加入した2023年に206ポイントを獲得、対するストロールは74ポイントだった。だが、今年はふたりの差がそれほど大きくない。その理由として考えられる可能性はふたつ。ストロールが速くなったのか、あるいはアロンソが遅く走っているのかのどちらかだ。
F1での8年目にしてストロールが突然速く走る秘訣を解明したとは考えづらい。つまり、アロンソが2023年シーズンに彼を支えていたモチベーションの一部を失ってしまった可能性の方が、はるかに高いだろう。
2023年序盤、アストンマーティンは全体の2番目に速いマシンを持っていた。しかし今年はトップ4から大きく遅れた5番手だ。マクラーレン、フェラーリ、メルセデス、レッドブルと争うよりも、他の5チームと戦う週末の方が多いのが現状だ。
そうした背景を考えると、アロンソが少しリラックスし始めても不思議ではない。リラックスモードであっても、アロンソはストロールより速いが、その差は去年よりは縮まるというわけだ。
モチベーションが幾分低下しているように見える現役最年長ドライバーと、父親がオーナーであることがシートを得ている最大の理由であるドライバーの組み合わせは、良いラインアップとはいえない。新たな技術体制を築く人々の才能にふさわしくはないだろう。
2026年からのエンジンサプライヤーであるホンダ、タイトルスポンサーのアラムコ、共同オーナーも務める技術ボスのニューウェイが、アストンマーティンの最大の弱点が何かをローレンス・ストロールに認識させたとき、彼がどのような行動を取るのか、非常に興味深い。