これ以上の人材流失はマズい。“レッドブルF1崩壊”の食い止めを図るホーナー代表
レッドブルF1を率いるクリスチャン・ホーナーの夏休みは多忙なものだったようだ。このチーム代表は才能ある人材の流出を阻止し、シーズン開始以来チームを弱体化させてきた内部の亀裂を修復するために、休みなく動いている。
チームのエースドライバーであるマックス・フェルスタッペンが3連覇を果たしたことで、今季2024年もレッドブルに影響をおよぼすものは何もないように思われた。しかし、ホーナーと従業員のひとりとの個人的な問題に加え、彼がレッドブルのレーシングプログラム全体の完全なコントロールを求めた動いたことが、この組織に大きな打撃を与えた。
ホーナーとレッドブルのモータースポーツコンサルタントを務めるヘルムート・マルコが対立するなか、チームのボスはレッドブルの筆頭株主であるチャルーム・ユーウィッタヤーとの良好な個人的関係を利用してチームとパワートレイン会社を掌握した。一方のマルコは、レッドブルの創設者であり親友でもあるディートリッヒ・マテシッツの死にまだ動揺していた。
同時に新任のオリバー・ミンツラフ(レッドブル社の企業プロジェクトおよび投資担当CEO)もレッドブルのF1プログラムをコントロールするという独自の計画を持っていたため、組織内では多くの“政治”が繰り広げられていた。
それでも、フェルスタッペンがレースに勝ち続けている間は、チーム内の状況は正常に見えた。だが、レッドブルの強さを生み出した“空力の鬼才”エイドリアン・ニューウェイが組織を離れるという決断は、ホーナーとマルコに大きな打撃を与えることとなった。
こうしたことから、フェルスタッペンはチームとの長期的な見通しに疑問を抱き始めた。成績が下降し始めるとフェルスタッペンは納得せず、マクラーレンに後れを取っていること、さらにはメルセデスに追いつくのに苦戦していることについて、技術部門を公然と非難するようになった。
長くスポーティングディレクターを務めたジョナサン・ウィートリーが来年初めからアウディに移籍すると発表したことで、20年近く続いた盤石な体制が崩壊したことが明らかだろう。ゆえにホーナーは謙虚になり、さらなる主要人材の離脱から自分とチームを守るための計画に取り組み始めている。
その最初のステップはマルコと和解することだった。そして、ベテランのマルコとともにミンツラフと条件に合意し、3人が互いの領域に干渉することなく調和して仕事をできるようにした。ホーナーは、組織を完全にコントロールするという自身の野望を保留にしたのだ。そうすることで3人はチーム内の充分な安定性を保証し、少なくとも2026年末まではマルコがチームに残ることで、フェルスタッペンがメルセデスに移籍するのを阻止したいと考えている。
オランダ人ドライバーがレッドブルでレースを続ける限り、ミルトン・キーンズのチームに溢れている才能の大半を引き留めておくことは容易だろう。しかしホーナーは、ニューウェイがどこに行こうとも彼についていく、もしくはマクラーレンのロブ・マーシャルに加わる、あるいはウィートリーとともにアウディに移籍する意志のある優秀な人材がいることも承知している。
ホーナーはレッドブルの本社があるオーストリア側のチームと団結し、さらなる人材の流出を止めたいと考えている。彼にとってセルジオ・ペレスをチームに残すこともその計画の一部だった。チームに新しいドライバーを迎え入れた場合、バランスがさらに変わる可能性があるためだ。
レッドブルがコンストラクタータイトルを確保し、スタッフが可能な限り高額のボーナスを得られるようにするために、ホーナーは次の10レースでメキシコ人の調子が劇的に改善することを願わなければならない。ボーナスはつねにミルトン・キーンズにあと数年留まるための素晴らしいモチベーションとなる。