F1オーストリアGP分析(2)レッドブルの最大のライバル、マクラーレンが導入した新フロントウイング
2024年F1第11戦オーストリアGPで、レッドブルは速さを取り戻し、決勝終盤までは優位を示していた。ところが、マクラーレンのランド・ノリスとのインシデントによりマックス・フェルスタッペンは後退、勝利を逃がしてしまった。レッドブルの勝利は確実だったと考えられる理由と今回復活した理由、最大のライバル、マクラーレンが導入したアップグレードを、F1i.comの技術分野担当ニコラス・カルペンティエルが解説し、マシン細部の画像も紹介する(全2回)。
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レッドブルが今もライバルたちに比べ圧倒的な優位に立っているエリアは、DRS性能である。強力なDRSのおかげで、レッドブルはマクラーレンよりも明らかに寝かせた(空気抵抗の少ない)リヤウイングで、直線スピードを稼ぐことができる。そしてコーナー手前でDRSを閉めれば、マクラーレンMCL38より強大なダウンフォースを取り戻せる。さらに低速コーナーでは、もともとマクラーレンより優れたコーナリング性能を見せている。
対照的にマクラーレンは、リヤウイングがより立っていることで、確かに立ち上がり加速はレッドブルを凌ぐ。しかしレッドブルはすべてのDRSゾーンでギャップを広げ、立ち上がり加速での不利を帳消しにしたのだ。そしてレッドブルリンクでのDRSゾーンの割合は、他のサーキットよりも多かった。とりわけ、RB20が苦戦したカタロニア・サーキットよりも顕著だった。
さらにオーストリアのコースには高い縁石がなく、モナコやイモラに比べるとずっと低い車高での走行が可能だった。このダウンフォース/ドラッグ比に代表される、いわゆる優れた空力効率は、レッドブルが今もライバルたちより優れた領域である。そしてレッドブルリンクは、それが存分に発揮されるサーキットだったということだ。
イモラやバルセロナと比べたもうひとつの違いは、レッドブルがこれらの週末とは異なり、すぐに適切なセッティングを見つけ、スプリントレース後にさらにセッティングを改善することができたことだった。
こうしてマクラーレンは特に予選で、レッドブルの優位性に苦しめられることになった。とはいえこの週末のマクラーレンは、またも「レッドブル以外では最速」であることを証明してみせた。ここでのMCL38には新しいフロントウイングが取り付けられ、エンドプレートも再設計された。
上の画像に見られるように、エンドプレートとシャッターの間に作られた新しいカットアウトは、これまでと少し異なるアウトウォッシュ(外側への気流の流れ)を作成するために、より丸い形状になっていいる。そうすることで、フロントタイヤの回転によって発生する乱流が、より側面に向けて飛ばされやすくなっている。
これらの改良の目的は、コーナリング速度を今以上に遅くすることなく、苦手な低速コーナーでの挙動を改善することだった。フロントサスアームのフェアリングにも細かな変更が施されているが、上の写真でもわかるように、変更はほとんど間違い探しのレベルだ。
「マイアミで導入されたコンセプトがうまく機能していることに気づき、この方向性を継続したいと考えた」とアンドレア・ステラ代表は説明する。「すべてが、低速区間での車の挙動を最適化する一連の試みだ」
「技術基準で認められたジオメトリは、非常に制限が大きい。低速、直進、高速のすべての区間で、望むものを得るのはほとんど不可能と言っていい。この妥協点をどれほど高いレベルで達成できるか。それが、すべてのチームが直面する課題であり、フロントウイング形状がどんどん複雑に、そして開発が難しくなっているのはそういう理由からだ」
「この新しいウイングで見つけた妥協点が、高速コーナーや直線でのパフォーマンスに大きな影響を与えることなく、低速である程度の利点をもたらすことを願っているよ」
マクラーレンは、レッドブルに有利なコース特性を持つレッドブルリンクでは、完全にレッドブルを打ち負かすまでに至らなかった。しかし少しずつ、そして着実に彼らの牙城を崩しつつあるのは間違いない。その意味でマックス・フェルスタッペンとランド・ノリスの一騎打ちは今後も確実に見られるだろうし、今週末のシルバーストンがその舞台にならない理由はない。
この記事は f1i.com 提供の情報をもとに作成しています