コロナ禍のリモート取材で感じたもどかしさと、浅はかすぎた『ピンクメルセデス』批判/2020年シーズンレビュー(2)
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、2020年シーズンのF1は、カレンダー変更を含め様々な対応を強いられた。シーズン再開後はチームやメディアがF1の定めた新型コロナ対策を遵守して各国を転戦することとなり、全17戦を戦い終えた。そんな2020年において話題になったメディアの『リモート取材』と、シーズン開幕前から大きな注目を集めたレーシングポイントへの『ピンクメルセデス』批判について、F1ジャーナリストの米家峰起氏が振り返る。
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3月のオーストラリアで開幕するはずだったシーズンは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて突然開幕が延期となり、7月まで遅れた。開幕してからも現地の様子は激変し、これまでとはまったく異なるスタイルでの運営となった。
オーストラリアGPの時点では準備が不充分で、ひとりの感染者が出ただけで中止を決断せざるを得なかった。しかしF1運営に関わるすべてのスタッフをバブルと呼ばれる小さな集団ごとに区切って行動させ、もし感染者が出てもその影響を最小限に抑えるという方式で感染の拡大を抑え、結果的に全17戦を無事に開催することに成功した。
もちろん開催各地・各国の関係当局との連携や移動・宿泊の手配も含め多大な努力の賜物であり、こうしたイベント開催のノウハウはウィズコロナ、アフターコロナのF1以外の世界で大いに役立つものになるはずだ。
バブル運営の影響として、取材に訪れることのできるメディアの数も制限されることになり、我々に仕事にも決して小さくない影響が及ぶことになった。現地に行こうと思えば行くこともできたが、現地に行ったとしてもパドックへの入場は許されず、メディアセンターからリモート取材に参加するだけであれば、現地を訪れる意味はほとんどない。
むしろ、現地に行くという自己満足のために現地の方々への感染のリスクを持ち込み、さらには日本にも感染のリスクを持ち帰ることになるのだから、“不要不急”の現地取材など諦めるのは当然のことと判断して今年1年は日本からのリモート取材に徹することを決めた。
もちろん、リモート取材は直接会って話すのとは違う。元々、F1ドライバーや会見に出席する人たちの受け答えというのは“よそ行きの言葉”だから、リモートであろうと生であろうとあまり変わりはない。しかし、そのよそ行きのスイッチを切ったときのふとした雑談だったり仕草だったりというのが、リモート取材では伝わらない。受け答えの音声と映像にタイムラグがあるから、この雰囲気でこのタイミングならこれを聞いても素直に答えてくれるだろうというような空気感を掴むことは難しい。ドライバーや首脳陣などチームが公式にセッティングした取材しかできず、ピットガレージの様子を見たり、パドックで立ち話をして雑談のなかから有形無形の何かを知るということもできない。
言葉の文字面ではなく、そういう言外の部分を機敏に感じ取って言語化していくタイプの記者ほど、リモート取材のもどかしさを痛感したはずだ。その結果、表面的で薄っぺらな記事が増えたようにも思う。今後リモート取材が主流になるかもしれないなかで、今までとは違う関係値の築き方や情報の引き出し方などが求められるようになるだろう。
2021年のF1がどのようなかたちで開催されるのかはまだ想像もできないが、すぐにかつてのような姿に戻ると楽観的な見方はしない方が良いのではないかと思う。それでもやはりF1はF1であり、充分に魅力的な存在であった。それは2021年も変わらないのだと思う。
レーシングポイントのマシンRP20が、あまりにもメルセデスAMGの2019年型W10に酷似していたことで議論が巻き起こった。
F1の世界では模倣は当たり前のように行われてきたし、ほとんどのアイディアがコピーされてライバルチームのマシンに投入されていく。それ自体は今さら責められることでもなければ、拮抗した競争を実現するためには必要なことでもあると思う。
ただしレーシングポイントRP20が問題視されたのは、ふたつの観点からだ。
ひとつはマシンコンセプトから完全にコピーしており、ディテールまでほぼ一致しているということ。つまり、コンストラクターとしてのプライドはないのかということだ。
しかしそれはあくまでスタート地点であり、シーズンを経るなかでレーシングポイントは独自の開発を進め、サイドポッドなどは完全に独自のスタイルへと進化してきた。そもそも2021年に予定されていた大幅レギュレーション改定に向けて、2020年のうちにメルセデスAMG製パワーユニット&ギアボックスに合わせてマシンコンセプトをレッドブル型からメルセデスAMG型へと移行して準備を整えるというのがレーシングポイントの考え方だった。
メルセデスAMGを完全コピーすることがゴールではなく、コンセプト刷新に当たってはメルセデスAMGに倣い、そこから新規定に向けて独自の進化を遂げることが彼らの目標であり、実際にそれを実行してきた。だからこそ2020年シーズンも終盤戦まで高いポテンシャルを維持し、終盤戦に初優勝という偉業を達成したわけだ。
そこまでを理解した上でRP20の設計思想というものを評価すべきであり、そうすれば“ピンクメルセデスAMG”という批判はあまりに思慮の浅いものだと言わなければならないだろう。
ふたつめの問題点は、コピーの方法についてだ。
前述の通りライバルチームのアイディアを模倣するのはF1界の常であり、どのチームも他車のパーツを様々な角度から写真撮影し、それをリバースエンジニアリングでCADデータ化するということは当たり前のようにやってきた。これ自体はRP20の場合も合法と認められている(規定変更で今後は制限されることになったが)。
つまり、“ピンクメルセデスAMG”と批判された箇所のすべてが合法と判断されたわけだ。しかしリヤのブレーキダクトが昨年メルセデスAMGから購入したパーツを改変したものであったために違法と判断され、15ポイントを剥奪されるに至った。
もし昨年購入したものをそのまま使っていれば合法で、今季型マシンに合わせるために改編すれば「独自設計でない」という理由で違法になる。その線引きも曖昧なら、世間ではこうした詳細は理解されないまま「似ているから違法とされたのだろう」というイメージで見られることになってしまった。
違法性を訴えたルノーにとっては、グレーなチームだから負けても仕方がないというエクスキューズにはなったかもしれないが、F1界全体にとってはあまり良いことではなかったように感じられる。