レッドブル・ホンダ『シーズン5勝』叶わず。原因はフロントウイングの解釈ミス【2019年F1反省会(1)/尾張正博編】
ホンダがF1に復帰してから5年目となった2019年。今年ホンダはアストンマーティン・レッドブル・レーシングへパワーユニット(PU)を供給し、第9戦オーストリアGP、第11戦ドイツGP、第20戦ブラジルGPで優勝を挙げるなど、ホンダF1にとって大きな飛躍を遂げた1年だった。
サマーブレイク中に行った座談会ではレッドブル・ホンダのシーズン5勝を予想したが、後半戦での勝利は第20戦ブラジルGPのみ。残念ながら予想は外れてしまったが、そんな2019年シーズン後半戦を、全戦現場で取材したベテランジャーナリストの尾張正博氏が独自の視点で振り返る。
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Q:まずは、レッドブル&トロロッソを含むホンダF1の総括をお願いします。
尾張正博氏(以下、尾張):よくやった、という感じです。レッドブルと組めばそれほど悪くないだろうと想像していましたが、結果的には当初の期待と同じくらいです。プレシーズンテストから開幕戦までの状況を考えると、よくここまで盛り返したなと思います。
レッドブルが3月に東京でデモランを行った際、私はヘルムート・マルコ(レッドブルのモータースポーツアドバイザー)にインタビューを行い、そこで彼が『5勝する』と言ったのを聞きましたが、私は『5勝は無理だな』と思いました。
というのも『2019年はクルマのコンセプトを変えた』と言っていたので、2018年までの“ダウンフォースが必要なサーキットで速い”という強みがなくなるぶん、他で勝てるのかなと思いました。ところが開幕戦オーストラリアGPの時点で、クルマが仕上がっていなかったんです。マルコはずっと5勝と言っていましたが、それが難しいというのはわかっていました。
ですが彼らはきちんとクルマを開発してなんとか追いつこうとしていましたよね。レッドブルについてはその作業が素晴らしかったと思います。
トロロッソに関しては期待以上でした。表彰台に2回乗りましたが、これはチームの歴史上初めてのことですからね。
今振り返ってみればの話ですが、トロロッソの今年のクルマは、基本的には昨年のレッドブルのクルマのいいとこ取りです。昨年のレッドブルは悪くなかったのですが、今年のシーズン序盤のトロロッソはセッティングがまだうまくいっていませんでした。
ですが中盤から終盤にかけては、しっかりとしたデータに基づいて、今年のトロロッソのマシンをチームがしっかりと理解できたのではないでしょうか。
Q:ハミルトンのタイトル獲得、メルセデスの6連覇と、結果だけを見ると2018年と代わり映えしない結果になりましたが、2019年シーズン全体としてはいかがでしょうか。
尾張:結果だけを見ると6連覇ですが、連覇している時には誤解しがちな点があります。たとえば後続に30秒以上の差をつけて連勝が続いたり、ポイントでも200点以上の差をつけて連覇していれば、ものすごく強いと思いますよね。でも最後のちょっとした差で勝ったりタイトルを獲るという状況では、翌年の連覇が簡単かというとそうではないんです。
メルセデスの開幕8連勝も、第2戦バーレーンGPでフェラーリのPUトラブルがなければ実現しなかった。もちろんそれも含めてレースですけどね。よく1988年のマクラーレン・ホンダ(開幕11連勝)と比較されますが、それとはちょっと違うなと思います。
レッドブル・ホンダは、先に話したようにクルマの開発がうまくいきませんでした。フェラーリは速さを見せたレースがあったものの、バーレーンGPではPUの信頼性のトラブルで勝てず、第4戦アゼルバイジャンGPでは調子の良さそうなシャルル・ルクレールが予選でクラッシュ、第7戦カナダGPではセバスチャン・ベッテルがプレッシャーに負けた。レッドブルとフェラーリはどちらも自滅でした。
それも含めてメルセデスが強いと言われればそれまでですが、メルセデスはきちんと足元を見て自分たちのやるべきことをきちんとやっている。この数年間そうですし、それが彼らの強みかなと思います。
第5戦スペインGPや第10戦イギリスGPのように得意なレースをしっかり獲り、高地の第18戦メキシコGPのように、たとえ勝てなくてもタイトル争いには問題ないというレースでも、周りがコケたことが今年メルセデスが圧勝した最大の要因。2020年のタイトル争いがどうなるのかは、フェラーリ、レッドブル・ホンダ次第です。
Q:レッドブルは開幕前に「5勝する」と宣言するも、最終的には3勝にとどまりました。5勝できなかった原因と課題について個人的な見解を教えてください。
尾張:最終戦アブダビGPでピエール・ワシェ(レッドブルのテクニカルディレクター)に話を聞いたのですが、レッドブルは金曜日のフリー走行1回目に2020年シーズンに向けた新しいフロントウイングを試していました。
第17戦日本GPでコンストラクターズタイトルが決まって以来、トップチームは2020年に向けて開発を進めていました。もちろんレッドブルもそうで、2020年はフロントウイングの形状を変えるようです。ということは、勝てなかった原因は『新しいフロントウイングに対する解釈の判断ミス』だと言っているようなもの。これが原因のひとつですね。
もうひとつ言えるとしたら、セカンドドライバーのパフォーマンス不足です。3勝にとどまった大きな理由にはならないにしても、1台で走らないといけないプレシーズンテストでピエール・ガスリー(現トロロッソ・ホンダ)が2回クラッシュしたことで、データ収集が完全に遅れてしまった。開幕戦に新しいウイングを持っていこうとしたけれど、間に合わずに第3戦中国GPで投入したことなどを含めると、セカンドドライバーの影響は少なくなかったのではないでしょうか。
昨年、クリスチャン・ホーナー(レッドブルのチーム代表)はフロントウイングの規則変更に反対していました。ホーナーを擁護するわけではありませんが、今年のフロントウイングに関する規則変更は誰のためにもならなかったと思います。2021年にはレギュレーションが変わるのに、この2年間のためだけの規則変更によってトップ3とそれ以外のチームとの差が広がってしまいました。
Q:2019年はレッドブルとトロロッソの間でドライバー交代があり、ガスリーが古巣トロロッソへ戻り、ルーキーのアレクサンダー・アルボンがレッドブルへ昇格しました。彼らの2019年の評価と2020年の課題を教えてください。
尾張:ドライバー交代は正解でしたね。まずはガスリーですが、彼はチームからの信頼をすごく気にするタイプです。それによってメンタル面が成績を左右することが少なからずありました。
そういうドライバーは多いけれど、それでは一流のドライバーにはなれないのではないかと思います。チームはそのドライバーと心中するわけではないし、『信頼していますよ』と言ったところで本人がそう思ってくれないとね。そういった点を考えると、トップチームは荷が重かったのではないでしょうか。
走りに関してはまだまだ上を目指さないといけないにしても、後半戦を見たら悪くない。チームメイトのダニール・クビアトより予選の成績も良いし、しっかりできているなと思います。
問題はメンタルです。シーズンオフになっていろいろ発言していますが、それが怖いですよね(笑)。おそらくヘルムート・マルコやクリスチャン・ホーナーはそういうものを気にしていないとは思いますが、ガスリーが『なんで僕をレッドブルに戻そうとしないの?』というような雰囲気になって、空回りしたり、変にマスコミを使って “ゲーム”をするのはよくない。トロロッソでも表彰台に上がれると思って頑張ってほしいですね。
一方アルボンですが、レースでの安定感が後半戦で光っていたところだと思います。課題は予選だと本人も言っていますが、それはトロロッソの時も同じでした。これはF1ドライバーになった人たちのほとんどが抱える問題ですが、最初に直面する課題が予選です。
F1では、FIA-F2などに比べるとセッション数は増えますが、同時にやらなければいけないことが比較にならないほど多いので一瞬たりとも時間を無駄にできない。FP1でコースインして2周目からクルマの本当のポテンシャルを発揮し、ミスをせず、きちんとフィードバックができないといけません。
それでいてFP2ではもう予選と決勝レースの戦略を決めるくらいですから、FP2のロングランというのはレースと同じような走りが求められます。簡単なことではないですが、アルボンは少し時間がかかっているようです。
(2)に続く
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尾張正博
宮城県出身。1993年よりフリーランスのジャーナリストとしてF1の取材を開始。一度は現場からは離れたが、2002年から再びフリーランスの立場でF1取材を行い、現在に至るまで毎年全レースを現地で取材している。