2015.10.13
【レースの焦点】時には非情、時には微笑みを
ふたりが接触する前の52周目、ターン13でボッタスに、ターン14でライコネンにオーバーテイクを許してしまったペレスは、その時点でひどく落胆したと言う。12周目に交換してから、41周を走行するソフトタイヤではフラットスポットを作らないことが何より重要で、そのためには早めにブレーキを開始することが必要だったのだ。
最終ラップの表彰台奪還劇はペレスにとって幸運だったものの、大切なのはそこに至る経緯。2度目のセーフティカーのあと、6番手フェリペ・ナッセと7番手フェリペ・マッサに前を塞がれたペレスは、オーバーテイクが不可能だと悟ると、無理せずタイヤを温存する走りに切り替え、レース終盤に備えた。性能低下を感じるより前、ピットに対して最も注意すべきタイヤを確認したのも冷静だった。もともとタイヤを持たせることに優れたドライバーだが、今シーズンのペレスは1年前よりずっと成長し、広い視野でレースを見つめる能力を身につけた。抜くことだけに集中するのではなく、時には“堂々と抜かれる”姿にも自信があふれている。
「僕はいまキャリアで最高の時期を迎えている。僕らの位置から気づくのは難しいかもしれないけれど、僕のパフォーマンスを見ている人たちにはわかるはずだし、それが僕に自信を与えてくれる」
じゃじゃ馬だったドライバーをひとまわりもふたまわりも大きく成長させたフォース・インディアの力も大きい──ドライバーに対して、常にフェアな敬意を示せるチームなのだ。だからゴール後のチームの笑顔には、誰もが温かい祝福の気持ちに包まれた。
そして、ロシアGPのもうひとりのヒーローは、カルロス・サインツJr.だ。FP3の大事故から彼が無事に帰還したのは、ソチの週末で一番大切な要素だった。さらに、20番手からスタートして7番手までポジションを上げたレースは果敢で、事故の影響を微塵も感じさせないものだった。18周目のターン3、リカルドとの並走はレース中で最も迫力のあったシーン。終盤はブレーキの過熱に悩まされながらも見事にペースを保った。最後は左フロントのブレーキが壊れてリタイアを余儀なくされたが、身体的にも精神的にも驚くほどタフなドライバーであることを十分に証明した。
事故は起こらないほうがいいに決まっている。それでも、大きな衝撃からサインツを守ったマシンやコースサイドの安全構造は、F1の進歩を示している。それに──不屈のドライバーが戦う姿は頼もしく、見守る全員に微笑みをもたらした。パドックを駆けめぐる政治よりも、ファンを心底楽しくするのは、こんな清々しいスポーツだ。
(今宮雅子/Masako Imamiya)
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