2015.11.03

【レースの焦点】0.8気圧の罠、愛すべき未知の世界




 土曜の予選より15度以上も路面温度が高くなったコンディションは、本来フェラーリに有利に働くはずだった。しかしサーキットのリズムを大切にするセバスチャン・ベッテルにとって、ここはつかみにくいコース。スタートで出遅れ、直後の1コーナーでダニエル・リカルドと接触して緊急ピットインを余儀なくされたあとは、完全にリズムを失ってしまった。パワーユニットやギヤボックスの交換によってグリッド降格のペナルティを受けたキミ・ライコネンにとっては、もともと失うもののない状態──6番手まで挽回したものの、勝負の相手がまたしてもバルテリ・ボッタスであったことが災いした。

 22周目のターン4、ライコネンの真横に並んだボッタスは、ターン5でイン側のラインを抑え、左からターンインしてきたフェラーリに対しても一切退かない態度を示した。結果、ライコネンの右リヤがボッタスの左フロントと接触。フェラーリはその場でレースを終えたが、ウイリアムズにダメージはなく、ボッタスは順調に走行を続けた。

「ソチのあと、いずれこういうことが起こると思ってた」とライコネン。
「ああいうシケインに入っていく場合には2台のスペースがあるものだけど、今回はなかった。もちろん、僕に退くつもりはない。僕らふたりが、また接触したのは不運だったけど」と、ボッタス。

 レース序盤にミディアムタイヤに交換していたウイリアムズにとって、ベッテルのクラッシュによる52周目のセーフティカーは大きな幸運に働いた。はるかに周回数の少ないミディアムを履いていたレッドブルも1ストップ作戦をあきらめるほかなく、ウイリアムズと一緒にピットイン。さらに彼らは低温では作動しにくいソフトを選んだため、セーフティカー明けのリスタートで思うように加速できないダニール・クビアトを、ボッタスは難なく抜き去った。レッドブルはストレート速度を敗因として強調するが、ソフトタイヤを選択したのはチームの作戦ミス。不運続きだったボッタスは、カナダGP以来の表彰台を実現した。

 オーバーテイクが難しく、ドライバーにとって攻め込めない要素が重なったメキシコGPの内容は、イメージとは裏腹に単調なものだった。それでもゴール後、誰もが「いいレースだった」と感じたのは、満員のスタンドから送られた声援のおかげ。地元の英雄セルジオ・ペレスは難しい1ストップ作戦を敢行し、8位入賞を果たした。

「セーフティカーが出動したときにはニコ(ヒュルケンベルグ)とフェリペ(マッサ)の前に出られるかもしれないとステイアウトしたけれど、それは叶わなかった。みんながタイヤ交換したあと、最後の15周は本当に難しかった。彼らの前で8位を維持できたのは、僕のキャリアでもベストのパフォーマンスだったと思う。地元でこんなに応援される僕は本当に幸運だ」

 スーパーマーケットの駐車場で初めてのカートを経験して以来、F1で走るのは夢だった。大きな声援を受け続け、大役を果たした週末を、ペレスは「一生、忘れない」と言った。そしてペレスに声援を送り続けたファンは──愛すべき“お祭り騒ぎ”でF1の世界に至福の週末をもたらした。

 この国のファンは、本当にF1が大好き。難しいことは何も言わなくとも、レースの楽しみ方を知っている。

(今宮雅子/Masako Imamiya)

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