【初日レポート】
“メキシコ・スペシャル”に注目。上位チームが高地バトルへ向けて新カウルを導入/F1第20戦
F1の世界では、メキシコGPが復活した2015年から、ある言葉が復活した。それは『メキシコ・スペシャル』だ。これは、メキシコシティGPだけに使用する冷却のためのボティワークの開口部の形状を意味する。
エルマノス・ロドリゲス・サーキットは、標高2240m以上に位置するメキシコ・シティにある。気圧は30m上昇するごとに0.3%低くなるので、サーキットにある国際自動車連盟(FIA)の気圧計は785.5ヘクトパスカルを示している。
大気圧が平地にあるほかのサーキットに比べて約2割低いということは、空気の密度が2割低くなるため、パワーユニットやギアボックスなどを冷却性能が約2割下がる。
ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)はこう語る。
「空気が薄いので冷却も厳しく、メキシコGPは24戦中でもっとも厳しいサーキットになります。冷却用のカウルはメキシコ・スペシャルというのを用意しておかなければならないほどで、金曜日のフリー走行ではどのチームもメキシコ・スペシャルを投入して、カウルの開口部を目一杯開けて走り始めると思います」
メキシコGPではレッドブル、フェラーリ、マクラーレン、ウイリアムズ、RBがアップデートパーツを投入してきたが、どのチームも冷却用の開口部の仕様を改良したパーツが含まれていた。
ただし、単純に約2割ボディカウルを広げても、メキシコでは適正にパワーユニットなどを冷却することができない。
というのもラジエターには、水温が100度以上でも機能するように内部に圧力をかけているのだが、安全上の理由から、FIAから支給されている圧を逃すリリーフバルブを取り付けなければならない。
「その設定は大気圧プラス3.75バールと決まっています。平地だと1バールにプラス3.75バールを加えた4.75バールをラジエターに圧力をかけて、100度以上の高温で水を流すことができるのですが、メキシコではそれが4.55バールまでしか上げることができないです」
「ところがメキシコは高地なので、沸点も低くなることで冷却水が沸騰しやすくなるため、圧力を高くして走りたい。ですがそれができないため、そこをバランスさせるための設定が難しいです。通常のサーキットよりも、よりピンポイントで圧力を設定しないと、走行中にリリーフバルブから熱湯が吹き出すこともあります」
ただし、F1は圧力設定を正確に行うスポーツではなく、この設定を行いつつ、いかに速く走るかが重要となるスポーツだ。したがって、圧力設定を正確に行うことはもちろん、いかに冷却性能を損なうことなく、空力性能を高めてダウンフォースを得て、コースを速く走るかが重要となる。
「空力に悪影響を与えずにタイムを上げるため、どこまで開口部を閉じていくかが勝負になると思います。レッドブル側と、クーリングをどこまで攻められるかをグランプリ開幕前にも話し合いました」
「(開口部を)開ければクーリング的には楽になりますが、それではタイムが上がらないので、どこまでマージンを削れるかがポイントになります」
今週末のフリー走行では、ラップタイムだけでなく、コンストラクターズ選手権争いを繰り広げているトップ3チームのボティカウルの開口部の形状やルーバーの大きさや数にも注目したい。