2025.11.25

マクラーレン2台の規則違反の理由を考察。接戦の選手権争いによるプレッシャーも一因か/F1 Topic


2025年F1第22戦ラスベガスGP ランド・ノリス(マクラーレン)
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 2025年F1第22戦ラスベガスGPのレース後、国際自動車連盟(FIA)の車検担当者がマクラーレン勢2台のプランクアセンブリの厚さを計測したところ、以下のような数値となっていたことが判明した。

F1 Topic
2025年F1第22戦ラスベガスGP決勝レース後会見(正式結果の確定前に実施) 左から2位ランド・ノリス(マクラーレン)、優勝マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3位ジョージ・ラッセル(メルセデス)

■ランド・ノリス:
フロント右側8.88mm、リア右側8.93mm

■オスカー・ピアストリ:
フロント左側8.96mm、フロント右側8.74mm、リア右側8.90mm

 テクニカルレギュレーションの第3.5.9条でプランクアセンブリの厚さの最小値は9mmを下回ってはいけないと規定されているため、2台はこれに違反していることが判明した。計測に用いられた測定装置は2025年5月に購入したミツトヨ製マイクロメーターで、メーカー仕様書によれば0.001mm以内の精度を有する。

 なぜ、マクラーレンはラスベガスGPでプランクアセンブリを規定を超えて摩耗させてしまったのか?

 考えられる要因は3つある。まず、ひとつ目が、ラスベガス・ストリップ・サーキットは全開率が高い高速型コースであることだ。このようなサーキットでは、通常より大きな予期せぬポーパシング現象が発生する。これがマクラーレンのプランクアセンブリの異常摩耗を誘発させたと考えられる。

 ふたつ目は、ラスベガスGPの週末のセッションの進行と天候だ。通常、チームはプランクアセンブリが摩耗しすぎないようフリー走行を利用してデータを取り、車高を調整する。しかし、初日の2回目のフリー走行は赤旗中断により大幅に走行時間が制限されたため、正確なデータを採れなかった可能性がある。

 本来であれば、1日目のフリー走行でしっかりとデータを採れなかった場合は、2日目のフリー走行3回目を利用することができ、予選に向けて再調整できるのだが、今年のラスベガスGPのフリー走行3回目は雨絡みとなった。雨用のタイヤはアクアプレーニング現象を防ぐため、インターミディエイトタイヤもウエットタイヤもドライタイヤより外径が大きくなっている。そのため、車高が自動的に上がる。さらに、ウエットコンディションになると車速も落ちるため、ダウンフォースも減り、ドライコンディション時よりもマシン底部は路面へ接近しないため、プランクアセンブリは摩耗しづらくなる。

 これに加えて、マクラーレンはフリー走行3回目でテレメトリーに異常が発生していたため、走行を早めに打ち切っていたことも不運だった。これらの状況により、マクラーレンはプランクアセンブリの摩耗を正確に読むことができないまま、予選へ向けた車高を決定した。

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)
2025年F1第22戦ラスベガスGP金曜日 オスカー・ピアストリ(マクラーレン)
ランド・ノリス(マクラーレン)
2025年F1第22戦ラスベガスGP予選 ランド・ノリス(マクラーレン)

 そして、3つ目がドライバーズ選手権が接戦となっていることの焦りだ。じつは、これと似たような状況となっていたのが第19戦アメリカGPで、オースティンでもマクラーレンはプランクアセンブリの摩耗予測をミスしていた。スプリント・フォーマットで行われたアメリカGPでは通常のグランプリのフリー走行3回目にあたるスプリントでセッティングの最終的な調整を図る。しかし、マクラーレン勢2台はスタート直後にクラッシュし、その機会を失った。

 アメリカGPでは2023年にもルイス・ハミルトン(当時メルセデス)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)がプランクアセンブリが規定よりも摩耗していたことでレース後に失格となった過去がある。マクラーレンはこのとき安全策をとったため、失格にはならなかったが、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)に太刀打ちできず完敗した。

 さらに今回のラスベガスGPでは、昨年厳しい結果に終わっていたこともマクラーレン勢の焦りを誘い、車高を見誤ってしまった。

 マクラーレンはスチュワード(審議委員)に対して、「初日の天候によりテストの機会が限られ、加えてプラクティスが短縮されたことなど、情状酌量の余地がある」と主張。さらに、「2025年における同規則違反の事例と比べても、違反の程度が小さい」と主張した。しかしFIAは、「規則上も、また前例上も通常のペナルティ(すなわち失格)以外を科す規定は存在しない」と述べた。

 マクラーレンは「フロアが(通常より大きな予期せぬポーパシング現象が発生したことによる)偶発的な損傷を受け、その結果として位置が変動し、追加の摩耗につながった可能性があると主張した」したものの、スチュワードは「これをペナルティ軽減の根拠として十分とは認めなかった」ため、失格が言い渡された。

 一方でスチュワードは、違反が「意図的に規則を回避するためのものではない」と強調し、チームに不正の意図がなかったことも公式文書に記している。

 失格となったマクラーレンのホスピタリティハウスには多くのメディアが駆けつけたが、マクラーレンの広報は「この件に関しては、会見は行わない。リリースを送るので、それを見てほしい」と声明を発表。アンドレア・ステラ代表が出てくることはなかった。

F1 Topic
F1第22戦ラスベガスGPでの失格が決まった後、マクラーレンの広報担当者は、会見は行わないと述べた
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失格裁定後、ガレージで次のレースに向けて、黙々と作業を進めるマクラーレンのスタッフ


(Text : Masahiro Owari)

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