2014.07.24

【毒舌パドック裏話】
ドイツGP編:人生最高の一日


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■人生最高の一日
 ドイツのナショナルチームが4度目のワールドカップ制覇を成し遂げた、その直後に入国するというので、いったいどれほどの騒ぎになっているのだろうと興味津々、わずかに恐怖も覚えつつドイツに足を踏み入れたのだが、何のことはない、木曜日には興奮もすっかり収まって、いつもと変わらぬ茫洋としたホッケンハイムの佇まいなのであった。

 ただ、無類のフットボールファンで知られるニコ・ロズベルグの周囲には、その喜びの表情を捉えんものと世界各国のメディアが詰めかけて、そりゃもう大賑わい。彼にとっては人生最高の午後であり、人生最高の一日でもあって、それが人生最高の週になったわけだから、注目を浴びるのもまあ無理はなかろうというものだ。

 実を言うと、ニコくらい国籍というかルーツが曖昧なドライバーはめったにいないのだが、ドイツがワールドカップで優勝した同じ週に結婚式を挙げ、おまけに自分もポール・トゥ・ウィンの圧勝で、タイトルにさらに一歩近づいたとなれば、ドイツ人に生まれたことを祝わない手もあるまい。
 というわけで、この週末に限ってはニコのルーツに難癖をつける発言はほとんど聞かれなかったのだが、一人だけ例外がいた。ニコに続いてバルテッリ・ボッタスがフロントローを占めたことに関して、予選終了後の記者会見でとあるフィンランド人ジャーナリストが、「歴史始まって以来のフィンランド人によるフロントロー独占」という意味のコメントをニコから引き出そうと躍起になっていたのだ。

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■マッサ、踏んだり蹴ったり
 これとは対照的に、“人生最悪の一日”を迎えそうだったのがフィリペ・マッサ。同僚のボッタスがこのところ頻繁に表彰台に上がって自分の地位を脅かしていることに加え、ホッケンハイムでは1コーナーでカメになる醜態まで演じて、まさに踏んだり蹴ったり。母国ブラジルがドイツに歴史的大敗を喫したショックを、まだ引きずっているのだろうか?
 と書いたところで、ふと思い出した。ほかならぬブラジル大敗にまつわるエピソード。今年のホッケンハイムは例年以上に観客動員が低迷したと聞いているが、ワールドカップに小遣いを注ぎ込んでしまったとすればそれも当然。
 だが、今季ドイツGPのチケットを驚くほど安く手に入れる方法があったのを知っている人はどれほどいるだろう?
 売れ残りを心配したのか、それとも純粋に愛国心の表れなのか、理由はよく分からないけれども、ドイツGPのオーガナイザーが、ワールドカップに引っかけた特別キャンペーンを用意していたのだそうだ。
 曰く、準決勝で対戦が決まった対ブラジル戦で、ドイツが1点得点する毎にチケットを11ユーロ割り引く、というウソのような本当の話。つまり、これに応募していたら77ユーロも安くチケットが買えた計算だ。ドイツGPのオーガナイザーが経営破綻に陥ったとしても決して驚いてはいけない、ということだね。

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■観客動員が低迷している理由は?
 ホッケンハイムの観客動員が低迷しているというのは本当だ。ドイツの一般的なファンは、どうやらシューマッハーに惚れ込んだほどには、ロズベルグやベッテルを好いてはいないらしい。
 私はこれを、出自の違いがもたらした変化、という風に見ている。“シューミー”が典型的な労働者階級の出なのに対し、セバスチャンやニコはいかにも高貴の生まれという感じがする。
 別にお高くとまっているつもりはなくとも、やることなすことオシャレだから、ファンの共感を得ることができないのだ(ミハエルの趣味がダサい、ということを言いたいのではない、念のため)。

 しかし、観客席に空きがあればそれなりの利用法もあるもので、いかにも上流階級に相応しい“リビングルーム風観戦スペース”をしつらえる者まで現れた。この手のファンがニコやセブの“ひいき筋”だとしたら、人数が増えないのも当然だな。

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