2024年F1第10戦スペインGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

【】レッドブル&HRC密着:首位浮上でタイヤ選択の異なるノリスに対し有利な立場に。最速マシンでなくとも勝利を掴んだ王者

6月24日

 3戦連続でポールポジションを逃した後、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、こう言った。

「モントリオールでは同タイム、今日は100分の2秒差で届かなかった。ただ、マシンは金曜日から大きく改善した。ターン1までは今年最長クラスの走行距離だから、2番手スタートは必ずしも不利ではない。特に午前中は雨が降る可能性があるので、明日もエキサイティングな1日になるだろう。またたとえドライだったとしても、このレースはスタートだけが重要なのではなく、タイヤのデグラデーションが鍵となる。左フロントタイヤがどれだけ持ちこたえるかが重要になるだろう」

 F1スペインGPの舞台であるカタロニア・サーキットは、スタートラインから下り坂が続き、1コーナーまで距離が690mと長い。そのため、前を走るマシンのスリップストリームの効果が大きく、たとえポールポジション以外からのスタートでも、1コーナーまでのポジション争いで、先頭に立つことは可能だ。

 ホーナーが予想していたように、スタートで好ダッシュを決めたフェルスタッペンは、ポールポジションからスタートしたランド・ノリス(マクラーレン)のインを差すことに成功。ノリスとサイド・バイ・サイドの争いをした際に少し芝の上を走ったために、アウトからジョージ・ラッセル(メルセデス)に先行を許すものの、3周目にはそのラッセルをアウトから抜き返して、トップに立った。

レッドブル&HRC密着
スタートでノリスのインを差したフェルスタッペン

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3周目、フェルスタッペンはラッセルを抜いてトップに立った

 フェルスタッペンは言う。

「レースを決めたのは序盤だったと思う」

 というのも、この日、優勝を争ううえで最大のライバルだと目されていたノリスと、異なる戦略を敷いていたからだ。それはノリスがスタートダッシュを決めるために新品のソフトタイヤを履くことを想定して、フェルスタッペンは中古のソフトを選択したことだ。その目的は抜きにくいカタロニア・サーキットでピットストップを意図的にズラして、アンダーカットでポジションを奪うことだった。そのため、フェルスタッペンは新品のソフトを最終スティント用に温存した。

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2回目のピットストップで新品のソフトタイヤを投入したフェルスタッペン

 ところが、スタートでノリスの前に出て、3周目にトップに立ったことで、フェルスタッペンは戦略的に非常に有利となった。スタートで新品のソフトを使用したノリスには、もう新品のソフトはない。最後のスティントは中古のソフトとなる。中古のソフトの周回数は新品よりも短くなるため、ノリスは1回目のピットストップと2回目のピットストップで、フェルスタッペンに対してアンダーカットを仕掛けられない状況となっていたからだ。

 これでフェルスタッペンは3周目にトップに立った後、後方とのギャップを見ながら、タイヤのマネージメントを行うことができた。

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フェルスタッペンは序盤にトップに立ったことで戦略的に有利な立場に。その後はタイヤマネージメントに徹した

「トップに立ってからはタイヤのケアもうまくいったし、それが今日の僕のレースを有利にしたと思う」

 フェルスタッペンはそう振り返った。

 レッドブル陣営にとって、唯一の心配はフェルスタッペンがピットインした直後にセーフティカーが入ることだった。しかし、この日のスペインGP決勝レースは終始クリーンなレースとなり、心配は杞憂に終わった。

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最初のピットストップで、フェルスタッペンはユーズドのソフトタイヤから新品のミディアムタイヤに交換した

 レース後、フェルスタッペンは厳しいレースだった理由を次のように語った。

「だって、僕たちは決して最速のマシンじゃないからね」

 それでも、勝つことができた理由をこう続けた。

「2022年だって、僕たちが一番速かったわけではなかった。あの年はフェラーリが一番速かった。そして、今年はマクラーレンが本当にいい仕事をしている。彼らはクルマにたくさんのいいアップデートを施してきたし、それは本当にうまく機能しているようだ。僕らとしては、マシンにいろいろなものを持ち込んできたけど、おそらく他のマシンが持ち込んできたものほどラップタイムは伸びていない。だからこれからは、もう少し上を目指して、また少し前に行けるように頑張るしかない。というのも、今日は明らかにペースが足りなかっただけでなく、プッシュしなければならないときに、たとえばランドのようにタイヤをいたわることができなかった。 だから、僕たちはもっとうまくやる必要がある」

 最速のマシンでなくても優勝できる。それがフェルスタッペンがチャンピオンである理由だということを強く印象付けたスペインGPだった。



(Masahiro Owari)