【F1パワーユニット技術分析:レッドブル】無謀ではなかったPU自社製造の決断。トップに迫る高いポテンシャルを持つ『DM01』
F1エンジンメーカーとしては初年度にもかかわらず、レッドブルは十分に競争力のあるパワーユニットを作り上げてきた。ではその実力は、メルセデスやフェラーリと比べてどの位置にあるのだろう。
無謀な挑戦と揶揄する声もあった。しかしレッドブル・フォードのパワーユニットは、当初の予想を上回る仕上がりを見せている。メルセデスとの差が依然として存在するのは事実だが、全体としてトップ勢レベルの競争力には到達していると言っていい。
ローラン・メキース代表は、メルセデス製PUとの差をおよそコンマ3秒と見積もっている。
「メルセデスは我々を含め、ほとんどのライバルより大きく先行している。ラップタイム差で言えば、コンマ3秒ほどだろう。一方、他のメーカー、フェラーリやアウディはおそらく我々と近い位置にいる。だがホンダは、やや苦戦しているね」
「ラップタイム差の大半は、主に内燃機関によるものだと考えている。電動側の出力は上限が定められているからだ」
創業者ディートリッヒ・マテシッツへの敬意を込めて『DM01』と名付けられたこのエンジンは、すでに強みと弱点の両方を示している。以下にそのポイントを整理する。

レッドブルがまず示した強いメッセージは、その信頼性の高さだった。
バルセロナでのプレシーズンテスト初日から、レッドブル製PUは900km以上を走破。これほど若いプロジェクトとしては異例の数字だ。
開幕してからもこれまでの3戦で、合計3345kmを走行。この数値はメルセデス(6074km)やフェラーリ(5045km)には及ばないものの、アウディ(1215km)やホンダ(1036km)を大きく上回っている。
この堅牢性の背景には、積極的な人材獲得がある。2024年時点でレッドブル・パワートレインズは565人を擁し、そのうち377人が研究開発に従事している。さらにプロジェクトの中核には、メルセデスから引き抜かれた経験豊富なエンジニア陣がいる。テクニカルディレクターのベン・ホジキンソンは、ブリックスワースで20年以上のキャリアを持つ元メルセデスの機械エンジニアリング責任者だ。
その周囲にも、製造、電動系、ハイブリッド設計、内燃機関設計など各分野のキーパーソンが揃えられており、この経験の集積が初年度からの完成度の高さを支えている。
純粋なパフォーマンスの観点でも、レッドブルのパワーユニットは十分に競争力がある。ただし、基準となるメルセデスには届いていない。
マックス・フェルスタッペンは、レッドブルのシーズン序盤における低迷に関して、「致命的なのは、PUではない」と言う。
「デプロイメントは良い。相関性やセットアップには改善の余地があるが、純粋なパワー自体が弱点というわけではない。本当の弱点はクルマ側にある」

現在ランキング6位に沈んでいるレッドブルの不振は、エンジンではなくRB22シャシーに起因する部分が大きいというのだ。とはいえ内燃機関単体で見ればメルセデスに対して、およそ15馬力の差があると推定されている。この差は無視できないが、初年度としては効率的な燃焼基盤を築けていると言っていい。
一方で、フェルスタッペンが言及した「実走データとの相関性」は、まだ開発途上であることを示している。エネルギー管理、エンジンマッピング、シャシーとの統合といった分野でも、メルセデスが長年蓄積してきたデータと経験が依然として大きな武器になっている。つまりレッドブルのPUはコンセプト的に劣っているわけではなく、現時点では経験不足が差となって現れていると言える。

レッドブルV6における特徴的な技術選択のひとつが、冷却システムだ。
近年のF1ハイブリッドPUは、特に大型化したバッテリーの影響で極めて高い熱負荷にさらされており、多くのメーカーは水冷式(ウォーター・トゥ・エア式)インタークーラーを採用している。3Dプリント技術の進化もあり、この方式は熱制御とパッケージングの両面で優れている。
しかしレッドブルは、あえて空冷式(エア・トゥ・エア式)インタークーラーを維持し、さらに独自のレイアウトを採用した。単一の熱交換器をエンジン上方に配置し、ハイブリッド系の冷却はサイドポンツーン側に分離している。
この構成により、コンプレッサーから吸気までの配管長を短縮。加圧すべき空気量が減ることで、ターボの応答性が向上する利点がある。特に今季はMGU-Hが廃止されているため、ターボ回転数の維持が難しくなっている。この弱点を、空気経路の短縮という“純粋に機械的な解決策”で補っている点は興味深い。

レッドブルは2026年レギュレーションの解釈でも、メルセデス同様に高い創造性を見せた。
本来、MGU-Kの出力はストレート終盤にかけて段階的に減少する規定となっている。しかし安全上の理由から、必要に応じて瞬時に出力をカットでき、その場合は60秒間システムがロックされるという条項が存在する。
レッドブルとメルセデスはこれを逆手に取り、予選ラップ終盤で意図的にMGU-Kをカット。最大出力の維持時間を引き延ばし、ラップ終盤のパフォーマンスを最大化していた。

効果は小さいながらも確実に存在する。ただしその代償として、MGU-Kが使えない状態ではターボ回転数が急落し、エンジン回転が落ちると過給圧も維持できなくなるというリスクがあった。このグレーゾーン活用は、最終的にFIAによって禁止された。

レッドブルが独創的なアプローチを見せている一方で、より根本的な領域、特に燃焼技術においては、メルセデスが依然として優位に立っている。
メルセデスは、温度に応じて動的に変化する圧縮比を活用しているとされる。具体的には、約16:1から18:1へと圧縮比を変化させることで、特定の条件下で熱効率を大きく向上させている。
この仕組みによるラップタイム上の利得は、1周あたり0.3秒以上とも推定されており、それは決定的な差となる。レッドブルもこのコンセプトの再現を試みたとみられるが、同等の成果は得られなかった。その背景には、実装の難しさやパッケージング上の制約がある可能性がある。
この差が、レッドブルが政治的スタンスを変化させた理由のひとつでもある。当初はこのグレー領域の活用に前向きだったが、後にフェラーリ、アウディ、ホンダと足並みを揃え、規則の明確化を求める側に回った。その結果、FIAは圧縮比の測定方法を変更するに至っている。
自社エンジン開発という大きな決断は、まさにリスクを取って勝負に出るものだった。そしてシーズン序盤の状況を見る限り、この挑戦は決して無謀ではなかった。レッドブルのパワーユニットはすでに、トップ争いに加わるだけの基盤を備えている。あとはそのポテンシャルを、どこまで引き出せるか、そこに今後の勝敗がかかっている。
