新技術規則を象徴する予選。日本で高まるF1人気【中野信治のF1分析/日本GP特別編1】
鈴鹿サーキットで開催されている2026年F1第3戦日本GP。3月28日(土)に行われた予選ではアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が2戦連続、自身2度目のポールポジションを獲得しました。
今回はアントネッリが証明した能力、2026年のF1マシンが求めるテクニック、そして予選日の観客動員数が11万人に達した日本GPと日本でのF1人気について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で予選日を振り返ります。
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アントネッリのポールポジション獲得は嬉しい驚きですね。彼は前戦中国GPでポール・トゥ・ウインでF1初優勝を飾っていますが、レーシングドライバーにとって、実は良いレースをした後のレースがとても重要だったりします。
そのため、日本GPでは金曜日からアントネッリの走りを注目していました。金曜日のフリー走行1回目(FP1)とFP2を見る限り、今回はジョージ・ラッセル(メルセデス)優勢かと思いましたが、土曜日を迎えてFP3では自分のペースを掴んでトップタイムを刻みました。
予選では苦手意識があったというコーナーも含めて完璧にまとめることができており、彼の修正能力の高さには驚かされました。元々スピードセンスがあるドライバーでしたが、ラーニングカーブ(学習曲線)という部分は未知数ではありました。ただ、今年の中国GP、そして今日行われた日本GPの予選を見るに、学習しドライビングにしっかり修正・反映できるという面での能力が非常に高いことを彼は証明しました。

技術規則が大幅に変わり、今年のF1は電気エネルギーをいかに充電し・使うかという戦いになっています。それに伴い、鈴鹿サーキットの走り方にも変化がありました。昨年までと比較して難しい面は当然ありますが、『クルマを速く走らせる』という方法論が変わっただけで、ドライビングの基本的な部分は変わっていないと感じます。
今年のF1は、変わった方法論をいち早く受け入れ、いち早くアジャストできるか、という部分の戦いが繰り広げられていますね。そのため、昨年と比較して難しい・簡単は、ドライバーそれぞれで感じ方が違ってくると思います。
今回の予選だと、比較的若いドライバーがチームメイトより前のグリッドを手にするケースが多かったですね。これは今年からF1マシンの全体的なダウンフォースが減り、タイヤが細くなったことで、2025年までのF1マシンと比較してスライドすることも多くなり、マシンコントロールの面で難しくなった部分はあると思います。
これまでのF1の『スロットルを踏んでダウンフォースを稼ぐ』とは違ったテクニックが求められ、そのテクニックがFIA F2よりも下位カテゴリーのマシンの走らせ方に似ているとすれば、少し前までそういったジュニアカテゴリーのレースを戦っていたアントネッリをはじめとした若手にとって、今のF1マシンはアジャストしやすいクルマになっているのだと。今日の予選結果は、新しい技術規則のF1を象徴するもの。そう感じますね。

そして、予選日の今日は観客動員数が11万人に達しました。これは本当に凄いことです。少し時間がかかりましたが、ようやくF1というものがどのようなスポーツで、どのような付加価値があるのか、ということが日本でも広く認知されてきたと感じます。
それは鈴鹿サーキットやF1側の努力もあってだと思います。新しい人たち、これまでモータースポーツに触れていなかった人たちの目にも、F1が届くようになって、本当に嬉しい変化ですね。これに留まらず、ここから3年、 5年、 10年かけて、F1とモータースポーツ文化が日本に根付いていくきっかけになればいいと願います。灯った火を消さないように、F1に関わる人間がみんなで一緒に努力して、私もF1の魅力を伝える側として、微力ながらでも頑張っていきたい。そう感じる1日でした。

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。