【2026年F1新車分析:フェラーリ】失敗が許されない『SF-26』に導入されたサスペンションとディフューザーの工夫
スペイン・バルセロナでの2026年第1回F1プレシーズンテストが終了し、ウイリアムズ以外の10チームのニューマシンがコースデビューを済ませた。各チームのマシンはここから大きく変貌していくが、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが、まずはシェイクダウン仕様のマシンを観察、分析した。今回はフェラーリ『SF-26』にフォーカスする。
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空力面の改善と信頼性向上という二つの課題を抱えるフェラーリにとって、新車SF-26の開発は、かなり難易度の高い挑戦だった。
代表フレデリック・バスール体制下で生まれた最初のフェラーリであり、2024年10月にテクニカルディレクターに就任したロイック・セラの指揮のもとで進められた最初のプロジェクトでもある。フェラーリによれば、SF-26は「シャシーおよびパワーユニットに関する新規定に対応するため、マシン・アーキテクチャの全面的な再設計を敢行したマシン」とのことだ。
「今季から導入されたアクティブ・エアロダイナミクスは、車体設計に新たな概念をもたらす」と、セラは語る。
「設計の自由度という点で、まったく異なる世界になっている。昨年までのDRSはオーバーテイク時のみ使用可能だったが、アクティブ・エアロは特定の区間においてほぼ毎周使用可能だ。つまり開発の中で考慮すべき自由度のひとつであり、パフォーマンスのレシピそのものを変える重要な要素の一部なのだ」

事前に予告されていたとおり、SF-26はフロントとリヤの両方にプッシュロッド式サスペンションを採用している。フェラーリがリヤにプッシュロッドを採用するのは2011年以来のことになる。さらにフロントサスペンションは、2025年にマクラーレンが採用していた分離アーム構成を踏襲した。
具体的に説明しよう。ロワウィッシュボーンの2本のアームは、ホイール側で単一点に接続されるのではなく、異なる2点に接続されている。下の図から分かるように、2本の独立したアームが異なる位置でアップライトと結合され、仮想的なキングピン軸(操舵軸)を形成しているのだ。

このジオメトリは、ステアリング角やサスペンションストロークに応じてキャンバー角、トー角、車高を変化させる効果を持つ。これによりタイヤマネジメントが向上し、さらにタイロッドを空力的に有利な位置へ配置することも可能になる。
またフェラーリは、メルセデスと同様にフロントブレーキダクトの吸気口をホイールディフレクターの後方に配置している。これにより、フロントウイング後方およびタイヤ背後の気流をクリーンに保つことができる。対照的に他チームは、従来型のインテークを使用している。

メルセデスがW17で独自のアイデアを発見したかのように思われていたが、同様のコンセプトがフェラーリにも採用されていることがわかった。SF-26のディフューザー側面には2つの開口部が設けられている。高エネルギーの気流を通過させることで、ディフューザー内部への乱流侵入を防ぐ“仮想的な壁”を形成する狙いだ。
フィオラノでのシェイクダウン走行時のマシンを見ると、ほぼあらゆる角度からディフューザー部に、光が通り抜けているように見えるのが印象的だった。
これは白い塗装でも部品の欠落でもなく、意図的に設けられた開口部であり、“スリット入りディフューザー”と呼べる構造である。空気はフロア上面からこの開口部に入り、ディフューザー側壁に沿って内部を流れる。直感的には、ディフューザーは完全に密閉されていなければ低圧を生み出せず、開口部は性能を損なうように思える。しかし、実際のディフューザー空力はより複雑だ。

最も重要なのは、強い迎角を持つウイングと同様に、流れをディフューザー表面に張り付かせて維持する能力である。流れが剥離すれば空力失速が起こり、ダウンフォースは急激に低下する。
このためF1のウイングでは、各エレメントの間にスリットが設けられている。そこに流れ込む空気が、下面(インナー側)の流れを付着させ、安定したダウンフォース生成を可能にしているのだ。
同じ問題はディフューザーでも発生する。フロア下から流れ込む空気は、自然な状態ではディフューザー内面に張り付きにくい。この問題に対処するため、上流で生成される渦を利用して流れを内部へ引き込む手法が用いられる。しかしこれほど長いフロアでは、十分なエネルギーを持つ渦を維持することが難しい。

だからこそ、このスリットの存在が重要になる。開口部は渦にエネルギーを供給し、流れを付着させ、ディフューザー内部での空気膨張を促進する。これはダウンフォース生成の中核となるメカニズムだ。さらにこれらの渦は、リヤタイヤから生じる乱流がディフューザー内部へ侵入するのを防ぐバリアの役割も果たす。ディフューザー側面に沿ったより強い流れは、この悪影響を抑え、全体性能をさらに向上させる。
フェラーリはアウディ、ホンダとともに、メルセデスとレッドブルが規則上の理論値を超える圧縮比でエンジンを作動させる方法を見つけた可能性があると疑っている。
2026年から導入される圧縮比16:1の上限は、常温状態での測定が条件となる。複数の情報筋によれば、メルセデス、そして程度は小さいもののレッドブルは、エンジンが高温状態になった際に実効圧縮比を高める巧妙な仕組みを利用し、性能向上を得ている可能性があるという。
フェラーリ、アウディ、ホンダはこの件についてFIAに説明を求める書簡を送付。FIAは技術専門家を交えた会合を開き、対応方針を協議した。関係者によれば、この会合のおかげで、作動温度下における圧縮比測定方法について一定の合意形成が進みつつあるという。ただし測定手法の合意が、そのまま即時導入を意味するわけではない。
エンジンカバー上には、2026年規定で義務化された形状に基づく比較的長いシャークフィンが装着されている。このフィンはヨー状態(車体が横方向に傾く状態)で強力な渦を発生させ、リヤウイングの作動を乱す可能性がある。フェラーリはエッジをギザギザ形状とすることでこの渦を分割し、リヤウイングの空力性能を改善している。

フェラーリはこの2026年型マシンの初期仕様について、「いわゆるスペックAの位置付けであり、主にデータ収集と信頼性確認、走行距離の積み重ねを目的としたものだ。開幕戦オーストラリアGP仕様ではない」と明言している。
「この段階で最も重要なのは走行距離だ」とバスール代表は語る。
「パフォーマンスを追い求めることではなく、まずは信頼性という観点で技術的選択を検証する。その後に初めて性能を追い始める。おそらく全チームが、スペックAでバルセロナテストに来るはずだ」
この開発方針はロイック・セラも裏付けている。
「重要なのはシーズンを通じた開発に対応できるだけの余地を、コンセプトの中に残しておくことだ。開幕戦仕様と最終戦仕様のマシンは大きく異なるだろうし、開発ペースも非常に速くなる。もしベースとなる骨格が十分な柔軟性を持たなければ、作業は極めて困難になってしまう。マシンには、その柔軟性が求められるのだ」
SF-25の失敗とハミルトンの不振により、フェラーリ会長から批判を受け、バスール代表は、SF-26で結果を出さなければ進退問題に直結する立場にある。その意味で、SF-26が優れたパフォーマンスを見せるかどうか、フェラーリには極めて大きなプレッシャーがのしかかっている。