F1チーム代表の現場事情/マクラーレン:フェルスタッペンの脅威と法廷闘争。ブラウンCEOにのしかかるプレッシャー
大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、マクラーレン・レーシングのCEOザク・ブラウンに注目した。
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今のマクラーレンの状況を見れば、すべてが完璧に進んでいるように見えるだろう。彼らは非常に高いパフォーマンスレベルを維持し、すでに2年連続となるコンストラクターズ選手権のタイトルを確定させているのだから。
1991年以来、実に34年ぶりに、マクラーレンはタイトル連覇を成し遂げた。思えば2023年ラスベガスGPでは2台揃って予選Q1敗退という悲惨な成績だったが、そこからわずか2年足らずで、これほどの快挙を達成したのである。
しかし、ドライバーズ選手権がシーズン終盤の最も重要な局面へと突入しつつあるため、明らかにチームへのプレッシャーは高まり始めている。シーズンの4分の1を残した現時点で、オスカー・ピアストリとランド・ノリスのポイント差は1勝分にも満たないのだ。
そこにさらにプレッシャーを加えているのが、マックス・フェルスタッペンの存在である。レッドブルが最近投入したアップグレードによって、フェルスタッペンはマクラーレン勢に急速に迫っており、マクラーレンは自チームのふたりのドライバーだけでなく、4度のワールドチャンピオンによる脅威にも目を向けなければならなくなっている。
マクラーレン・レーシングCEOのザク・ブラウンが負けることを最も嫌う相手がいるとすれば、それはレッドブルだ。ブラウンと前代表クリスチャン・ホーナーとの関係が悪かったからだ。ただ、ホーナーの離任を受けて、ブラウンとレッドブルチームとの関係はここ数カ月で改善した。後任としてローレン・メキースがチーム代表に就任し、両者の関係をリセットする機会が生まれたのである。
ヨーロッパラウンドの期間中、ブラウンは実際にメキースと面会し、ホーナー個人との間にあった敵対感情はあくまで個人的なものであり、後任には引き継がれないことを明確に伝えた。
その時点では、ブラウンは、レッドブルがフェルスタッペンにドライバーズタイトル争いにおいて反撃できるだけのマシンを提供するとは予想していなかったことだろう。
ところが、フェルスタッペンはレッドブルが競争力を発揮しにくいと見られていたモンツァとバクーで連勝を飾った。さらにアゼルバイジャンではマクラーレン自身が混乱した週末を過ごし、コンストラクターズタイトルを決める初のチャンスを逃すという事態に直面した。これを受けて、ブラウンはシンガポールに非常に張り詰めた心境で到着した。
ブラウンには、他にも対処すべき問題が山積していた。ドライバー契約に関する件もそこに含まれており、そのひとつがシンガポールGP週末がスタートする際に公となった。マクラーレンが育成ドライバーだったアレクサンダー・ダンとの契約を即時解除したと発表したのだ。
ダンに対して契約延長を打診した際、彼のチームから最終提案に対する返答がないことに、ブラウンは不満を抱いていた。ブラウンは、ダンに対し、契約を受け入れるか拒否するかの期限をシンガポールGPの前週に設定し、その期日までに返答がなければ提案を撤回すると警告していた。その期限が過ぎたため、決断が下されたのである。
数日後、マクラーレンは公式にこの件を発表し、これは他チームへ移籍させるための契約解除ではなく、単に将来の方向性で合意に至らなかったためだと説明した。しかし、実際にはブラウンはこの交渉の経緯に強い不満を抱いており、裏ではより攻撃的な言葉で説明を行っていた。
週末の終わりには、コンストラクターズタイトルを確定することができ、安堵したブラウンだが、ひとつフラストレーションを感じる出来事があった。タイトル獲得のセレモニーを表彰台上で行った際に、ピアストリを参加させることができなかったのだ。ピアストリは通常のレース後のスケジュールに従って、テレビメディアのインタビューに答えなければならず、表彰台上でのチームの集合写真に入ることができなかった。
そしてその後にピットで行われた集合写真の撮影には、ブラウン自身が加わることができなかった。飛行機の時間の関係で、空港に急行しなければならなかったからだ。
ブラウンは、インディカードライバーのアレックス・パロウに対する訴訟のため、高等法院への出廷が求められていたため、翌月曜日の朝にはロンドンに戻らなければならなかった。そして法廷では、オスカー・ピアストリの契約締結に関する詳細や、将来のF1シートに関して行った発言について、明らかにされることになっていた。そのため、ブラウンはマクラーレンのタイトル獲得を十分に祝う時間もなく、シンガポールを立ち去った。
ブラウンにとって母国レースのひとつであるオースティン戦で、彼はメディアからさまざまな追及を受けることになるだろう。レーシングチームを率いる人間は、サーキット上の成功を達成する以外にも、さまざまな仕事に取り組まなければならないのだ。