【角田裕毅を海外F1解説者が斬る】厳しい内容に終わったシンガポールから巻き返せるか。F1キャリアをかけた正念場へ
F1での5年目に突入した角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回はシンガポールGPの週末を中心に振り返る。
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ああ、なんということだ……。シンガポールでキャリア最悪のスタートをするとは、タイミングとしても場所としても、非常に悪かった。スタートでミスをしてはいけないサーキットの中で、シンガポールは上位に入る。DRSゾーンが4つあっても、追い抜きは非常に難しいコースだ。今回のレースでも、多くのドライバーたちがそれを身をもって思い知らされただろう。
私は先週末、シンガポールまで足を運んでいた。頻繁にグランプリに招待され、断り続けるのが気が引けたため、今回は受けたのだ。
金曜のフリープラクティスを見た段階では、角田はまた良い週末を迎えられそうだと感じた。ポイント獲得も狙えると期待した。
まずFP1では、彼はマックス・フェルスタッペンのタイムから0.5秒も遅れておらず、トップ10圏外との差も十分にあった。FP2では予選シミュレーションで少し苦戦し、フェルスタッペンとの差は約0.85秒に広がったが、ロングランのペースは良く、レッドブルに決勝に向けて多くの有益なデータをもたらした。
そして決定的な土曜日を迎えた。前日ライバルたちに後れを取っていたフェルスタッペンがFP3で最速を記録し、RB21のセットアップ変更が功を奏したことがわかった。角田がチームメイトとの差を0.5秒以内に収めていれば、トップ10に近い位置につけられたはずだ。ところがタイムシートを見て、私は驚愕した。彼はなんと18番手、フェルスタッペンから約1.3秒も遅れていたのだ。
マシンに何かトラブルがあったのか、あるいは渋滞でベストラップを台無しにされたのかをレッドブルの友人たちに尋ねてみた。しかし彼らの表情を見て、そうではないことを悟った。そうなると、「もう一度基本セットアップに戻して、予選で勝負するしかないな」と私は思った。
Q1では、希望が再び湧いた。角田は10番手のタイムを出し、フェルスタッペンから0.5秒差だったのだ。確かにソフトタイヤを2セット使わざるを得なかったが、結果を出したのだから良いだろう。
ところがQ2では一転、最下位のタイムとなり、王者との差は0.78秒。セッション終盤にはイエローフラッグが出ていたとはいえ、それはほぼ半数のドライバーに影響していたのだから、言い訳にはならない。
決勝では、スタートの失敗と2周目にエステバン・オコンに抜かれたことが響いた。ただしアンダーカット戦略は成功し、全員がピットを終えた時点で角田は11番手に浮上し、ポイント圏内に迫った。しかし終盤にカルロス・サインツにかわされ、最終的に12位でフィニッシュした。
空港へ向かう途中、友人のローレン・メキースとほんの少し話をしたが、彼も私と同じく困惑していた。それはあまり良い兆候ではない。
今のところ、アイザック・ハジャーが来年レッドブル・レーシングに移ることはほぼ確実だ。そして、アービッド・リンドブラッドがレーシングブルズからF1にデビューする可能性があり、いまやアレクサンダー・ダンがレッドブル・アカデミーの一員になろうとしている。そういう状況では、角田にはもう切り札は残っていない。
シンガポールでチャンスにつながる結果を出せなかったのは痛かった。今年の残りレースは6戦。来年もF1の世界に残るためには、そこで圧倒的に良いパフォーマンスを見せなければならない。成功するか失敗するか、結果は分からないが、とにかく全力を尽くしていこう。
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筆者ハービー・ジョンストンについて
イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。
悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。
ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。
穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。