「要求通りに燃やすのは意外と大変」高温多湿な環境では“燃焼”が鍵。負荷の少ないコース特有の難しさ:ホンダ/HRC密着
2025年F1第18戦シンガポールGPが行われたマリーナベイ市街地サーキットは、全開率が高くない。しかし、パワーユニットを管理するホンダ・レーシング(HRC)のスタッフにとっては、チャレンジングなコースでもある。まず、冷却をいつも以上に行わなければならず、セッション中、メカニックは何度もドライアイスを交換する。
それは、市街地コースであるシンガポールは、全開率が高くないためエンジンには厳しくないように思えるが、モナコやシンガポールのように全開率が低いコースではパワー以外の別の要素が試されるからだ。
それがドライバビリティだ。ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)は次のように語る。
「全開率が高い負荷が高いコースでは、たくさんの空気と燃料を入れてドカンと燃焼させるので問題は起きにくい。それに対して、シンガポールのように負荷が低いコースでは、空気と燃料を少しだけ取り入れて、ボソッと燃焼させなければいけません。ただ、それをドライバーが要求しているようにボソッと燃やすのは意外と大変なんです」
しかも、モナコと違ってシンガポールが難しいのは、赤道から最も近いF1開催地だということ。シンガポールが熱帯地方特有の高温多湿地帯であるため、空気中の水分量が多く、ドライバビリティの調整がほかのコースとは異なる。
「少ない空気のなかに、普段よりも多い水分が含まれているため、燃焼が影響を受けやすいんです。過去にも何度かここではドライバビリティでトラブルに見舞われ、苦労しました。特に大変なのが全開の状態ではなく、アクセルを踏み始めたところで、ドライバーが要求したトルクをきちんと満たせるかどうかが重要になります」
ドライバビリティはピストン内での燃焼が左右する。空気中の水分量が多いと燃焼が変わるため、その調整が必要となる。そのような状況にも、今年のHRCのスタッフは現場で冷静かつ的確に対処。ドライバビリティに関して大きな問題は起こさず、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が2位でフィニッシュした。
予選後にリアム・ローソン(レーシングブルズ)がICEなどのコンポーネントを交換したのは、フリー走行3回目でクラッシュしたことが関係していた。HRCとしては、確認するためにパワーユニットの交換をチーム側に要求したが、マシンの修復とセットアップ調整を考えると、交換する時間的な余裕がないため、チーム側の要望で、予選まではクラッシュしたパワーユニットで走らせたという。
予選後、ICEを調査するためマシンから下し、これまで使用したことがあるパワーユニットに交換した。
レース中には、アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)がクリッピング症状を訴えていた。その理由を折原GMは次のように説明した。
「レース中、ICE側のパワーを落として走らざるを得なくなり、その結果、MGU-Kが頑張らなくてはならない状況になり、MGU-Kが早めにクリップしていたのだと思います」
状況を整理しよう。まずエンジンをコントロールするセンサーに異常が出た。その後、安全に走るためにフェイル・セーフ・モードに入れて走らざるを得ない状況となる。このモードではエンジンの馬力が通常よりも落ち、その分、MGU-Kの仕事する時間が増える。たとえば、通常であれば、5秒でストレートエンドに到達していたのが、フェイル・セーフ・モードで6秒かかると、その分MGU-Kの仕事時間が伸びる。というのも、MGU-Kのアシストというのは、ストレートに入って全開になったところから始まり、ストレートエンドで切れるよう、エネルギーマネージメントされているからだ。そのため、1周の後半部分で電気が足りなくなっていたのだと考えられる。
苦戦を強いられると予想されていたシンガポールGPで、フェルスタッペンの2位獲得はHRCにとっても終盤戦に向けて力強い結果。シンガポールGPでクラッシュしたローソンのパワーユニットと、レースで問題が起きたハジャーのセンサーについては、現在HRC Sakuraで調査が行われている。