【中野信治のF1分析/第18戦】驚きのメルセデス躍進とフェルスタッペン逆転王座の可能性。現地で知るマリーナベイの高低差と一体感
マリーナベイ市街地サーキットを舞台に開催された2025年F1第18戦シンガポールGPはジョージ・ラッセル(メルセデス)がポール・トゥ・ウインを飾りました。今大会では元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が現地からの中継解説のためシンガポール入り。初めて訪れたシンガポールGPの盛り上がりや、現地で知り得たコースの注意点など、独自の視点で綴ります。
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今回のシンガポールGPはDAZN中継の解説を現地からお届けするために、現地入りいたしました。シンガポールという国を訪れるのは初めてでしたし、市街地コース&ナイトレースというトピックも多く、新しい視点を得る非常に学びの多い時間を過ごすことができました。
シンガポールGPは想像以上に、上手く作り上げられたグランプリでした。ホテルやショッピングモールもF1とコラボレーションしてF1マシンのモックアップやシミュレーターを設置するなど、ファン参加型のイベントや取り組みを多数見ることができましたね。ファンがより盛り上がれる空気・雰囲気を作り、街全体で一緒にこの一大イベントを成功させようと協力しているように感じました。
シンガポールGPが盛り上がれば、海外からの旅行者も増え、ホテルやショッピングモール、そしてレストランがそれぞれ恩恵を受けることができるので、良い循環が確立されていますね。たとえシンガポールGPのイベント自体で大きな黒字を得ることが叶わなくても、多数の観光客を呼ぶことができ、国として得られるメリットが多いことを現地の民間企業や行政が理解しているからこそ、たくさんの協力を得られているのだと。そしてその協力があるということが、シンガポールGPにとって欠かせないものなんだと実感できました。
中継を終えた後、30分ほどしか時間がありませんでしたが、宿泊先のホテルへ向かう際に少しだけコースを歩くことができました。コース全体を1周することはできませんでしたが、映像で見える以上にフラットな路面ではありませんでした。以前は、市街地コースながらフラットかつスムーズな路面だという印象を抱いていましたが、実際に見てみるとブレーキングゾーンからコーナーにかけてわずかに下り坂になっている箇所があったり、微妙な高低差や路面修復に伴う段差も目に映りました。
細かな高低差や段差は映像ではなかなか確認できませんが、繊細なF1マシンのドライビングをさらに難しくさせる大きな要因になります。たとえば、金曜日のフリー走行2回目(FP2)ではラッセルがターン16を曲がりきれずにクラッシュしています。ラッセルも「奇妙なクラッシュだった」と話していましたが、緩く右に曲がるターン16の現地に足を運ぶと、ターンインするあたりの路面が下り坂になっていました。
強めにブレーキをかけながらターンインする場所がわずかに下り坂という、リヤのグリップを失いやすい状況ができてしまっていたのです。あくまで推察の域ではありますが、現地でこの下り坂を確認し、ラッセルのクラッシュにある程度納得することができました。
シンガポールGPでは、ヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)やステファノ・ドメニカリ(F1のCEO)、小松礼雄さん(ハース・チーム代表)、アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)といった人々と話をする機会があり、F1の今の事情を聞くことができました。その一部はDAZNで配信されていますので、見ていただければ幸いです。
本当は裕毅(角田裕毅/レッドブル)とも話ができれば良かったのですが、私はタイミングが合わず叶いませんでした。今回の裕毅はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とは違い、古いフロントウイングで戦う週末となり、フェルスタッペンが予選2番手、決勝2位となる一方で、裕毅は予選13番手、決勝12位となりました。フェルスタッペンとクルマに違いや差があるのは間違いないことですので、簡単にはこのふたりのアタックタイムやペースを比較することはできません。
それにチームの内情が分かりませんので、断言できることはありません。ただ個人的には同じくストリートサーキットだった前戦アゼルバイジャンGPでいい流れを掴んでいただけに、いい流れをシンガポールGPに繋げてポイントを獲ってほしかったなと、そう感じました。