5年ぶりのホンダPU勢全車入賞。チーム側と連携により、ハジャーのトラブルをグリッドで修復:ホンダ/HRC密着
2025年F1第17戦アゼルバイジャンGPの舞台であるバクー市街地サーキットでは、ターン16からターン1までの約2010mは、約24秒間の連続全開走行となる。ここでは空気抵抗が少ない効率のいいエアロダイナミクスが重要になると同時に、エンジンとERSのパワーが鍵となる。
そのバクーで、ホンダRBPTのパワーユニットを搭載する4台がそろって予選Q3に進出した。ホンダRBPT勢が4台とも予選でトップ10に入ったのは、今年の第13戦ベルギーGP以来、今シーズン2度目。ベルギーGPの舞台であるスパ-フランコルシャン・サーキットも1コーナーを立ち上がってから、ケメル・ストレートエンドのブレーキングポイントまで、20秒以上の連続全開走行となる。そのF1屈指の長いストレートが存在するふたつのコースで、予選で4台全車がQ3に進出したことは、ホンダRBPTのパワーユニットが現行レギュレーション最終年の今年、最強クラスのパワーを誇っていると考えていいだろう。
このホンダパワーはアゼルバイジャンGPの日曜日の決勝レースでも炸裂した。ポールポジションからスタートしたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、2番手以下に影を踏ませぬ危なげない走りでポール・トゥ・ウイン。加えてファステストラップと全周回リードも記録してグランドスラムを達成した。
レース後半に熱い5番手争いを演じたのも、リアム・ローソン(レーシングブルズ)と角田裕毅(レッドブル)というホンダRBPT勢だった。単独走行ではなく、接近したバトルになると、通常のエネルギーマネージメントから、接近したストレート上でオーバーテイクボタンをいかに長く押すことができるかの勝負になる。
そのバトルをホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)はどのような心境で見ていたのだろうか。
「オーバーテイクボタンを押す時間を稼ぐために、ストレート区間以外でのエネルギーマネージメントを工夫します。あのくらい接近した戦いでオーバーテイクボタンを使用すると1回でエネルギーを使い切り、次に使うまで数周かかります。同じパワーユニットを使用しているふたりだったので、同じようにたまって、同じように使用するという戦いを繰り返していたので、実際にはどちらかがミスをしなければ、抜くのは難しかったと思います。私はレッドブルのガレージで仕事をしていたので、裕毅に抜いてほしかったですが、どちらかがミスをするというシーンは見たくないので複雑な心境で見守っていました」
今回、ホンダRBPT勢4台入賞を実現した立役者とも言えたのが、HRCとレーシングブルズのスタッフの連携だった。というのも、スタート前のレコノサンスラップでアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)が「エンジンパワーがない」と訴えていたからだ。
「ラップ・トゥ・グリッド(レコノサンスラップ)に向けて、ガレージアウトしてすぐ、ハジャー選手が問題を訴えました。データにもそれは出ていて、パワーユニット本体ではなく、パワーユニット全般を制御するハイドロ系の油圧が動いていませんでした」
折原GMによれば、パワーユニットにはまったく問題はなく、チームから供給されている油圧になんらかの不具合が生じて、ハイドロ系が機能していなかったようだ。
「そこで、グリッド上で修復作業をし、スタートさせました。ポンプなどが壊れていれば修復できないのですが、詳細は教えられませんが、グリッド上で直せる範囲だったのは不幸中の幸いでした。もし、レース中に起きれば、間違いなく走れなかったと思います」
こうして、ハジャーは8番手からスタートして、10位に入賞。ちなみにレース中、セーフティカー明けに失速したのはパワーユニットの問題でなく、ハジャー自身のミスだった。
ホンダ勢4台が全車ポイントフィニッシュしたのは、2020年第10戦ロシアGPでのマックス・フェルスタッペン(レッドブル/2位)、ダニール・クビアト(アルファタウリ/8位)、ピエール・ガスリー(アルファタウリ/9位)、アレクサンダー・アルボン(レッドブル/10位)以来のこと。ホンダとしては5年ぶりのことで、2023年から始まったホンダRBPTとしては初の快挙だった。
折原GMは、この快挙達成の裏にホンダとチームのスタッフの連携があったことを明かした。
「今回はマックスの優勝ももちろんうれしいですが、それよりも4台すべてが入賞したこと。そして、裕毅が上位入賞したことがうれしかったです。それと、ハジャー選手のトラブルに関しては、エンジン側のデータの異常をホンダのスタッフがチーム側に『ここが怪しいのではないか?』と伝えて、グリッドでチーム側のスタッフが作業に取り掛かって、スタートまでのわずかな時間で修復することができました。あのリカバリーがなければ、4台入賞はなかったので、みんなよくやってくれました」
HRCがレッドブル・ファミリーと組んでレースをする最後のシーズン。最終戦まで全力で戦うという姿勢に乱れは見えない。