2025.10.03

【F1コラム】フェルスタッペンが(まだ)史上最高のF1ドライバーとはいえない理由


2025年F1第17戦アゼルバイジャンGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が優勝
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 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、現役F1ドライバーとして最強と評価されるマックス・フェルスタッペンは、F1の歴史に残るチャンピオンたちをすでに超えたのか、というテーマを取り上げる。

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 モンツァでの圧勝に続き、マックス・フェルスタッペンはバクーでも別格の走りを披露し、今季4勝目を挙げた。

 パドックの大多数の人々は、現在フェルスタッペンが他を寄せつけないレベルにいる存在であることに同意している。必ずしも常に競争力があるとは言えないレッドブルでも、彼は確実に結果を出し、勝利すら収めている。2024年、2025年におけるフェルスタッペンの強さを証明する最も簡単な方法は、同じマシンに乗ったチームメイトたちの成績を見ればよい。セルジオ・ペレス、リアム・ローソン、角田裕毅――いずれも才能あるF1ドライバーたちだが、フェルスタッペンに肉薄することはほとんどできていないのだ。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2025年F1第17戦アゼルバイジャンGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が優勝

「彼を他の誰かと比較することはできない。彼は別格だ」と語るのは、1972年と1974年の世界王者エマーソン・フィッティパルディである。

「現時点で、マックスはグリッド上で最高のドライバーだ」と、2016年チャンピオンのニコ・ロズベルグも付け加える。

 現役ドライバーたちもフェルスタッペンの実力を認めている。

「彼は信じられない存在だ!」イタリアGPでフェルスタッペンが優勝した後、キック・ザウバーのガブリエル・ボルトレートはこう言った。

 自分のメルセデスのシートをフェルスタッペンに奪われかねない状況にあったジョージ・ラッセルは、「マックスはどのチームも欲しがるドライバーだ――それは当然のことだ」と認めている。

 ハースのオリバー・ベアマンは、「史上最高のドライバーだ」という、さらに踏み込んだ表現でフェルスタッペンを称賛する。

 私もフェルスタッペンが現役最高のレーシングドライバーであることには同意する。だが、果たして“史上最高”なのか?

 私の見解では「ノー」だ。フェルスタッペンがF1の“GOAT(Greatest Of All Time)”、つまりF1史上最高のドライバーと呼ばれるためには、まだ満たさなければならない条件がある。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2025年F1第16戦イタリアGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

■フェルスタッペンが(まだ)GOATではない理由1:強力なチームメイトを持った経験がない

 私が考える“GOAT”候補たちは、フェルスタッペンよりもはるかに厳しいチーム内競争を経験している。

 ファン・マヌエル・ファンジオは1951年、アルファロメオで前年王者ジュゼッペ・ファリーナをチームメイトに持ちながら、世界選手権を制した。そして1955年には、メルセデスでチームメイトのスターリング・モスを相手に戦って、世界王座を獲得している。

 ジム・クラークは1967年と1968年、ロータスで、2度の世界王者グラハム・ヒルがチームメイトだった。

 アイルトン・セナは1988年と1989年、マクラーレンでアラン・プロストとの間で、おそらくチームメイトバトルとしては史上最も厳しい戦いを経験した。

1989年F1日本GP 47周目のシケインで接触したマクラーレン・ホンダのアラン・プロストとアイルトン・セナ
1989年F1日本GP 47周目のシケインで接触したマクラーレン・ホンダのアラン・プロストとアイルトン・セナ

 ミハエル・シューマッハーは、F1初シーズンに3度の世界王者ネルソン・ピケをチームメイトに持った。フェラーリ時代には常にナンバーワン待遇を保証されていたが、それでも反対側のガレージには、エディ・アーバイン、ルーベンス・バリチェロ、フェリペ・マッサといったグランプリ優勝経験者が並んだ。

 ルイス・ハミルトンのデビュー年には、前年王者フェルナンド・アロンソがチームメイトだった。さらにメルセデス初期には、ロズベルグとタイトル争いをしなければならなかった。

 これに対して、フェルスタッペンはいまだに本当に速いチームメイトに追い込まれたことがない。2016年〜2018年にはダニエル・リカルドとのチーム内バトルの兆しが見られたが、リカルドは比較的早い段階で戦いを諦めてしまった。それ以降は、ピエール・ガスリー、アレクサンダー・アルボン、セルジオ・ペレス、リアム・ローソン、そして現在の角田裕毅と組んできたが、誰もフェルスタッペンに真の挑戦を仕掛けることはできなかった。

■フェルスタッペンが(まだ)GOATではない理由2:レッドブル以外で勝っていない

 フェルスタッペンがまだ“GOAT”とは言えないもうひとつの理由は、彼がレッドブルでしか勝利もタイトルも挙げていない点である。

 ロータス一筋だったジム・クラークを例外とすれば、他の“GOAT”候補者たちは複数のチームで勝利を収め、その適応能力を証明している。

 ファンジオはアルファロメオ、マセラティ、メルセデス、フェラーリで勝利およびタイトルを獲得した。

 セナはロータスとマクラーレンで勝利。シューマッハーはベネトンとフェラーリで優勝した。ハミルトンはマクラーレンとメルセデスでグランプリに勝ち、さらにフェラーリでもスプリント勝利を挙げている。

 結論として、フェルスタッペンは現役F1ドライバーとして最も優れていることは間違いない。だが、“GOAT”の地位にはまだ到達していないと、私は考える。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2025年F1第17戦アゼルバイジャンGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

■参考:F1の“GOAT”候補たちの勝率

●ファン・マヌエル・ファンジオ:47.1%
●ジム・クラーク:34.7%
●ミハエル・シューマッハー:29.7%
●マックス・フェルスタッペン:29.6%
●ルイス・ハミルトン:28.2%
●アイルトン・セナ:25.5%



(Text : Peter Nygaard)

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