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【レースの焦点】王者さえもリスクを冒す、精神戦を生き残る「天性」

2016年5月3日

 今宮雅子氏によるロシアGPの焦点。またしても、クライマックスはスタート直後に訪れた。クビアトが発端となったことは確かだが、2コーナーから3コーナーで何が起きていたのか。そして、すべてを予想していたかのように切り抜けたドライバーたちは、ただ幸運だったのだろうか。

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 スタート直後の接触事故が、恒例となった感のある今シーズン。最初のコーナーで混乱を回避できれば、その後の展開は大きく変わってくる──ソチは、そんなレースの典型になった。ポールポジションからクリーンなスタートを切ったニコ・ロズベルグ。スリップストリームを生かしてターン2までにバルテリ・ボッタスの前に出たキミ・ライコネン。チームメイトに続いたフェリペ・マッサ。波乱なく難関を通過したのは、この4台で、後方では大混乱が生じていた。

 ギヤボックス交換のペナルティによって7番グリッドからスタートしたセバスチャン・ベッテルは、6番手セルジオ・ペレスの前を横切るようにしてイン側にマシンを運び、いったんは5番手ダニエル・リカルドの右に並ぼうとした。しかしオーバーテイクには勢いが足りないと察知した瞬間レッドブルの後方に戻ってスリップストリームを生かし、再びトライ。ターン2の入口でリカルドに並んだ。マッサの後ろにはイン側にベッテル、真ん中にリカルド、アウト側にペレスの3台。そこに、後方から来たダニール・クビアトがリヤをロックさせてベッテルのマシンに追突。動きを乱したフェラーリは左のリカルドに接触……事故の原因は明らかにクビアトのミスにあったが、不幸だったのは事態がターン2だけで収まらなかったことだ。

 アウト側から無事に通過したように見えたペレスも、右リヤタイヤにダメージを負っていた。フォース・インディアの動きが乱れたのはターン3に入って加速していた最中。それに反応したのか、あるいは自らのマシンのダメージを感じたのか、ベッテルが大きくアクセルを戻したところにクビアトが再び追突し、フェラーリを弾き飛ばしてしまった。

 ターン2の接触は、クビアト本人も認めるとおり彼に責任がある。「みんなが驚くほど減速した」という言葉に嘘がないことは、スタートで少し出遅れたペレスがベッテル、リカルドの左に並んでいることからも理解できるが、スタート直後の最初のブレーキングが“マシンの物理的な限界”ではなく、まわりのマシンとの関係によって決まってくるというのは鉄則。クビアトの前で横一列に並んだ3台は誰も理想のラインを選ぶことができないのだから、コーナー入口で極端に減速して当然なのだ。オーバーテイクの意図はなかったとしても、クビアトが楽観的すぎたことは否めない。

 一方で、ターン3でのベッテルへの追突に関して、クビアトが意図的に追突したかのように批判するのは少し違う。ベッテルのオンボード映像(とエンジン音)でもわかるとおり、フェラーリが加速区間でスロットルを戻していることは明らか。イン側から難なく前に出て行ったルイス・ハミルトンや、後方からやってきたトロロッソ2台との速度差からも、それは理解できる。ベッテルが減速した理由は定かではないものの、スタート直後のターン3ではフェラーリが走っていた位置も十分に走行ライン内で、クビアトはオーバーテイクを試みたわけでもなく、フェラーリの後ろに従っていたにすぎない。目の前でベッテルが突然、減速したのだ。

ダニール・クビアト、3度目の母国グランプリは苦い後味に
LAT


 ベッテルにしてみれば、誰だかわからない相手にターン2、そしてターン3でも追突されたのだから怒りが爆発するのも当然。しかしターン3に関しては「突然、減速されたから避けようがなかった」というクビアトの言葉にも一理ある。ターン2からの流れを含めればクビアトへの批判も仕方がないものの、ターン3だけを切り取ればレーシング・インシデントだった。「2回も当たった」という事実はとんでもないけれど、2回の接触はまったく状況が異なっていた。ベッテルの真後ろにいたのが他のマシンでも、クビアトと同じ位置にいれば接触は避けられなかっただろう。

 ターン2の混乱に“乗じて”と表現するのは失礼なほど、先見の明を備えていたのは10番手スタートのハミルトン、14番手スタートのフェルナンド・アロンソ、15番手スタートのロマン・グロージャン。スタート直後の最初のブレーキングで混乱が生じる今年の状況、もともとトリッキーなソチのターン2。そこから生じる事態を予測してアウト側にポジションをとっていた彼らは、イン側で「何か」が生じたと察知した瞬間、迷うことなくランオフエリアにマシンを向け、プラスティックのマーキングの左側を通ってコースに戻る“ライン”を選んだ。バーチャルセーフティカーの表示が出た時点でハミルトン5位、アロンソ7位、グロージャン8位。それぞれ、5〜7ポジションのアップを実現した。

 最もトリッキーな位置にいたのはハミルトンで「視界の端で何かが起こっている様子を捉えた瞬間、アウトに行ったのは本能的な反応」と説明した。ハミルトンのわずかに後ろ、もう少し余裕を持って状況を判断できたアロンソは「ターン2とターン3の出来事は僕らにとってラッキーだった」とひとことで済ませたが、“ラッキー”は、天性のレース勘を生かせたときのアロンソの口癖だ。

 そこで得たポジションを守ることができたのは、ソチがオーバーテイクの難しいコースであるため──DRSの検知ポイントやDRSゾーン直前のコーナーは乱気流の影響でマシンが乱れやすく、前のマシンに十分に近づくことが困難。タイヤの性能低下が小さく、作戦の選択肢も、ほとんどない。そもそも滑らかな一般舗装のソチではスーパーソフトでも作動温度領域に入れるのが難しく、空力性能の足りない中団チームは予選で“必要以上のハンデ”を背負っていたのだ。順調にレースを走り始めればタイヤを作動させることも可能で、レースペースであればアンダー/オーバーのバランスに悩まされることもなかった。



勝者ニコ・ロズベルグを讃えるフェルナンド・アロンソ
Sutton


 スタート直後の混乱が最大の山場。そこからは単調に見えたレースだったが、そんな流れのなかでも無理なくポジションを守れたことがマクラーレン・ホンダの“山場”だった。6位入賞を果たしたアロンソが言うとおり「スタートで得たポジションを守ることができなかった昨年」とはレースそのものが違う。42周目、48周目、52周目には、その前後より2〜3秒速いベストラップ(トータルで5位、対ロズベルグでは1.2秒遅れ)を記録したが、これは「エネルギーが十分であれば、マシン性能的には、この速さが可能」という指標を示すため。昨年のアブダビでは前後のラップで10〜20秒もペースを落としてエネルギーを補充しないと、そんなアタックも不可能だったのだから、パワーユニットとして機能するようになった進歩は大きい。

 同時に、エリック・ブーリエも認めているとおり、4位ボッタスとの約50秒の差は、アロンソがどれだけ燃費走行を課せられていたかを示す。燃料消費が大きいソチで、燃費に最も注意を払わなければならなかったのはフェラーリ勢とホンダなのだ。

 ハミルトンは上海に続くMGU-Hのトラブルで予選Q3を走れなかった。メルセデスはメルボルンとバーレーンで使用したICEに新しいターボチャージャーやMGU-Hを組み合わせてハミルトンをグリッドに送り出したが、レース中には冷却水漏れの問題が発生した。余裕を持って楽勝したように見えたロズベルグも、MGU-Kに不安を抱えてペースを抑えざるをえなかった。

「壊れなければ、エンジニアは精神的にとても快適で楽になる。でも、そこに留まっていると速くなれない。だから精神的につらくても、リスクを計算しながら攻めなきゃいけない。信頼性を確保して快適、そして攻めるから胃が痛くなるほどドキドキ……開発は、その繰り返しだよ」というのは、パワーユニット技術者の言葉。ホンダだけでなく、メルセデスもフェラーリもルノーも、こんな厳しい技術競争に身を投じている。

 彼らにとって、見た目ほど平坦ではなかったロシアGP。すでにハミルトンは誰よりも多くのパワーユニット・コンポーネントを使っている──フェラーリが攻めれば、圧倒的なメルセデスさえリスクを冒す。2016年は、技術者たちの壮大な精神戦でもある。

(今宮雅子/Text:Masako Imamiya)




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