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【レースの焦点】つまらないなんて言わせない。賢明な闘志だけが笑う、偉大な道

2016年8月30日

 今宮雅子氏によるベルギーGPの焦点。伝統のスパ・フランコルシャンは天候による波乱がなくとも、やはりドライバーの力をくっきりとあぶり出した。アルデンヌの女神は、あきらめず冷静に戦った者たちに祝福を与えたようだ。

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 喜びの度合いは三人三様でも、仕事を成し遂げた満足感は同じ──祝福の光が表彰台の3人を温かく包んだ。

 ニコ・ロズベルグにとっては、伝統のサーキットでの初勝利。チームメイトとのポイント差をもっと詰められればベストだったけれど、自分に可能な25ポイントは危なげのないノーミスのレースでしっかりと確保した。

 ダニエル・リカルドにとって、2位は予選5位から狙っていたポジション。マネージメントの難しいタイヤを研究し、作戦を熟考し、自らの選択を信じて挑んだ──ソフト・ソフト・ミディアムは2014年に優勝を飾ったときと同じ作戦だった。「自分から作戦を提案し、自らペースをコントロールして築いた勝利だから、これまでで一番うれしい」と言ったのは2年前。そんなリカルドの自信を思い出させる表彰台の笑顔だった。
「今日は赤旗のあとが本当のスタートだった。僕は2番手、ルイス(ハミルトン)は5番手からスタートして、僕らはとてもうまくポジションを守ったと思う」
 ドイツGPに続いて、メルセデスの「少なくとも1台の前で」ゴールした。手にしたマシンと戦略を駆使して、戦える実感を正確につかんできたことが大切。シンガポールや鈴鹿では勝利も射程内に入ってくる。

表彰式のインタビューに母国の先輩マーク・ウェーバーが現れると、ダニエル・リカルドが満面の笑みで「シューイ」を薦める
LAT



 ルイス・ハミルトンにとって、パワーユニット交換によるペナルティを背負う今回は“ダメージ・リミテーション”が最優先事項。21番グリッドから追い上げて、首位発進するロズベルグとの差を可能なかぎり詰めていくことが大切なレースだったのだから、3位ゴールは思った以上の成果だ。

 ハミルトンにとって不安だったのは「異常に高い」とドライバーたちが不満を語ったピレリの指定内圧──タイヤの形は内部の空気圧によって保たれているものの、昨年のイタリアGPと比べても10%以上高い内圧ではフラットであるべき接地面さえ丸くふくらんでしまって路面に添わない。接地面積が小さくトレッド面の一部だけでマシンを支えるため、異常摩耗が起こる。オーバーヒートするとコンパウンド内部の成分が気化してブリスターができてしまう。アタックできない条件は全員にとって同じでも、追い上げるハミルトンにとって難題はより大きくなった。

 その難しさを軽減したのはスタート直後の混乱と、ケビン・マグヌッセンのクラッシュによるセーフティカー出動で、スーパーソフト勢の全員、ソフト勢の一部がピットインしたことによって赤旗中断前には5番手までポジションを上げていた。それでもレース再開後にフェルナンド・アロンソをかわして4番手に浮上した後は、ニコ・ヒュルケンベルグを抜くのに6周を要した。

「このタイヤでは1台抜くだけでも、どれだけ難しいかわかっていたから。たとえばタイヤが良ければ、もっと攻めてダニエルと戦うこともできただろうけど、そうじゃなかったからね。できるかぎり長くタイヤをもたせることに集中して、それでもオーバーテイクを実現するためには、このふたり(ロズベルグとリカルド)より1回多くストップすることが必要だった」

 ヒュルケンベルグを抜いた時点で、2位リカルドとの間隔は6秒以上に広がっていた。第1スティントをミディアムで走行したハミルトンには、赤旗時点でミディアム(ユーズド)が1セットしか残っておらず、ロズベルグのように残り2スティントをミディアムで走り切る選択肢もなかった。5番手からのポジションアップを目指すには、アグレッシブな3ストップ作戦が必須だったのだ。

アップグレードしたパワーユニットにトラブルが発生、60グリッド降格のペナルティを受けながらも、あきらめなかったフェルナンド・アロンソ
McLaren



 21番手スタートから表彰台に到達したハミルトンがスパのヒーローなら、22番手から7位入賞を果たしたフェルナンド・アロンソは、ある意味それ以上。ハミルトン同様にセーフティカーや赤旗が幸運に働いたとはいえ、中断後のレースではウイリアムズに攻撃を許さなかった。一定のタイムを維持しつつ、タイヤやマシンへの負担を軽減できる能力は、おそらくF1界で一番──メルセデス・パワーユニット勢を相手に、タイヤ性能を維持することでパワーのハンデを克服した。そうすることが意味を持つマシン/パワーユニットになってきた。

 顕著に見えたのは、戦うべき相手とそうでない相手を明確に見きわめて自分のレースを守る、レースを俯瞰する能力。ハミルトンや好調フォース・インディアのふたりに対しては過度に抵抗せず、余力を残した。それがレース終盤の対ウイリアムズ戦を可能にしたのだ。スパの週末、何度もトラブルに見舞われたアロンソには、ロングランのチャンスもなかったことを忘れてはならない。

 グリッド表を逆さにして、ハミルトンの55グリッド降格と自らの60グリッド降格を「暫定フロントロウ」と頼もしいユーモアに変えるのもアロンソにしかできない“技”。7位という結果には、寛容さに包まれた不屈の精神が表れた。

いきなり自らのレースを台無しにしてしまったマックス・フェルスタッペン。そこからのリカバーもならず
LAT



 そんな大先輩たちをよそに、ベルギーGPの主役は、良くも悪くもマックス・フェルスタッペンだった。
 ヨス・フェルスタッペンが現役だった当時、オランダからのファンが大挙してスパにやってきたのは、長年ボランティアで伝統のグランプリを支えてきた人たちの間でも語り草。その息子がトップチームで1勝を飾ってスパに“凱旋”してきたのだから、アルデンヌの森は大いに賑わい、ビールとフリットは(おそらく)飛ぶように売れ、青空が広がった。

 だから、トップドライバーたちがとても大切に戦っているこのレースを、フェルスタッペンはさらに大切に戦わなくてはならなかったのだ。スーパーソフトでスタートするから、レース序盤にマージンを築こうとしたのも理解できる。でも、スパの1コーナーは“勝負”を決める場所ではない──慎重にまわりとの位置関係を判断し、出口で最適な加速を得られる姿勢、ライン取りを準備する場所なのだ。スタートで出遅れた時点で、1コーナー入口でフェラーリに並ぶよりも出口から先を考えるべきだった。

「あとから考えれば、イン側にもっとスペースを残せば僕は接触を免れることができた。僕の位置からはキミは死角に入っていて見えなかったし、彼にはスペースを残したつもりだ。でも、その向こうにいるマックスなんて全然わからなかった。彼がやろうとしたことが可能だったとは思わない」と、セバスチャン・ベッテルは言う。典型的なスタート直後の混乱だが、予想外の動きで引き金を引いたのはフェルスタッペン。ライコネンはインを開けたわけではなく、1コーナーにターンインするため必要なラインを取っただけで、ベッテルは出口の加速に向かって進んだにすぎない。

 いちばん残念なのは、ファンにとって主役であるべきフェルスタッペンが自らレースを台無しにしてしまったことだ。フロントウイングを壊してダウンフォースを欠いたマシンでピットに戻るラップでは、至るところでオーバーランをして縁石を乗り越えた。フロアのダメージは1コーナーだけの結果ではない。そしてレース中には、ライコネンに対して執拗で危険なブロックを繰り返した。12周目のレ・コンブではフェラーリを左に押し出し、次の周回はケメル・ストレートの最高速地点で微妙にラインを変えた。しかも、その瞬間にテールランプが点滅……ライコネンにしてみれば、並べば幅寄せ、抜こうとすれば後出しで自分の進路に入って来てブレーキングという「馬鹿げた」ブロックだった。相手がトップドライバーでなければ命の危険にさらす行為である。

 1コーナーの接触がレーシング・インシデントだとして「台無しにされた」フェルスタッペンの気持ちはわからないではない。でも、レースにおける“リベンジ”は前を向いて行うことであって、バックミラーを見てやることじゃない。モンツァの1コーナーやロッジアで同じことを繰り返せば、間違いなく重大事故が起こる。

 ロズベルグ、リカルド、ハミルトン、ヒュルケンベルグ、セルジオ・ペレス、そしてアロンソ。オーバーテイクが可能なスパ・フランコルシャンだからこそ、大切なのは、ドライビングの腕と冷静で賢明な思考だと証明したドライバーたちだ。それでも十分すぎるほど、迫力ある高速バトルが展開された。

 オー・ルージュ〜レディヨンを上がり切ったところの計測地点では、ハミルトンの322.0km/hがトップ。ケメル・ストレートエンドでは、ペレスが358.2km/hを記録した。まっすぐ、全開と言っても、実は曲がっているのが大自然に築かれた偉大な道。「いまのF1は遅くてつまらない」なんて、伝統のコースは言わせない。

(今宮雅子/Text:Masako Imamiya)




レース

4/19(金) フリー走行 結果 / レポート
スプリント予選 結果 / レポート
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予選 16:00〜
4/21(日) 決勝 16:00〜


ドライバーズランキング

※日本GP終了時点
1位マックス・フェルスタッペン77
2位セルジオ・ペレス64
3位シャルル・ルクレール59
4位カルロス・サインツ55
5位ランド・ノリス37
6位オスカー・ピアストリ32
7位ジョージ・ラッセル24
8位フェルナンド・アロンソ24
9位ルイス・ハミルトン10
10位ランス・ストロール9

チームランキング

※日本GP終了時点
1位オラクル・レッドブル・レーシング141
2位スクーデリア・フェラーリ120
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム69
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム34
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム33
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム7
7位マネーグラム・ハースF1チーム4
8位ウイリアムズ・レーシング0
9位ステークF1チーム・キック・ザウバー0
10位BWTアルピーヌF1チーム0

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