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【レースの焦点】無線なんて聞こえなくてもいい、聖地のトリッキーな華

2016年7月12日

 今宮雅子氏によるイギリスGPの焦点。ハミルトンにとって母国の週末は完璧だった。レース後の話題を独占したのは、ロズベルグの無線をめぐる議論だったが、シルバーストンを盛り上げたのは英国のチャンピオンだけでなく、難しいコンディションで際立つドライバーたちの妙技だった。

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 寒風のなかで声援を送り続けた母国のファンを「世界一」とルイス・ハミルトンは讃えた。「天候にかかわらず、自分たち英国人には、このスポーツへの情熱がある」とも……少し悔しいけれど、それは真実だ。

 ロンドンの北西、クルマで1時間と少しの距離にあってもシルバーストンの気温はロンドンよりずっと低く、飛行場の跡地では、いつも強風が吹き荒れる。雨が続けばキャンプサイトも泥沼。そんな厳しいコンディションのなかで、イギリスのファンは陽気にビールで乾杯する。悪天候や寒さにもくじけず、金曜日から熱心に走行を見守る。しかも全員が笑顔──イギリスのF1報道、とりわけタブロイド紙には政治やゴシップの話題が多いが、そのイメージに反してファンの情熱は、とても純粋で熱い。

 金曜日から圧倒的な強さを見せたメルセデス。そのなかで、徐々にチームメイトを引き離していくハミルトン。予選Q3では「トラックリミットを超えた」ことによってタイムが抹消されても、それすら舞台を盛り上げる演出であったように、最後の1アタックでポールポジションを決めた。
 スタート直前の雨、セーフティカー先導のスタート、7周目のバーチャルセーフティカー(VSC)による幸運。ハミルトンのレースには、かすかな綻びも不安もなく、大観衆の前で3年連続の勝利が実現した。

「大雨が来て、太陽が顔をのぞかせて、最後はビューティフルな日になった」

 晴天のことをビューティフルだとかラブリーだとか表現する国だけれど、もちろんハミルトンの言葉には、晴れがましい勝利の喜びがあふれている。

 イギリスではなく他の国のグランプリなら、トップ争いのないレースは“退屈”と言われたかもしれない。ハミルトンの活躍がなければ、雨はもっと冷たかったかもしれない。一丸となって母国グランプリを自分のものにできるドライバーとファンを、ちょっとうらやましく感じるシルバーストンだった。

ロズベルグとフェルスタッペンの2位争いは、ペナルティというかたちの決着に
Sutton



 ウェットからインターミディエイトへのタイヤ交換と、VSCによる運・不運。トリッキーな路面でのオーバーランやスピンによっても順位が変動した。それでも終わってみれば、トップ5が予選と同じポジションでゴール──マシン性能が試されるコースでは、ライバル対比の強みを生かしてオーバーテイクのチャンスを創り出すこともできる。シルバーストンが優れたサーキットである証明だ。

 変化する路面では、同じタイヤ作戦を採ってもパワーバランスが大きくふれる。インターミディエイトの第2スティントでメルセデスに比肩する速さを発揮したマックス・フェルスタッペンは、3秒あったニコ・ロズベルグとの間隔を一気に詰めて、16周目のマゴッツでメルセデスに並び、ベケッツからチャペルでアウト側から前に出た。高速コーナーで高いグリップを発揮するレッドブルの強みを最大限に活かした抜き方は、ダニエル・リカルドが何度も実践してきたもの。でも“無傷の”メルセデスを相手にレッドブルがコース上で競り勝ったのは、ここ数年で初めてのことだ。

 しかし17周目にドライタイヤに交換すると、4秒ほど遅れていたロズベルグが追い上げを開始。30周目以降はフェルスタッペンの後方1秒以内に入って攻撃を続けたが、興味深いのは、ターン5先のDRS区間でメルセデスのリヤウイングが閉じたままの周回があったこと。コントロールラインでは1秒以内でも、ターン3の探知ポイントでは離れていたのだ。

「ERSを駆使した戦いだった。とにかく、彼がエネルギーを使い切ることを願ってプッシュしたよ」と、ロズベルグが説明する。
「でも、彼のバッテリーが空になったときには、僕のバッテリーも空だった」
 毎周のようにハンガーストレートからストウでしかける攻撃は、38周目に、ようやく成功した。レッドブルに接触するほど真後ろまで迫り、スリップストリームを最大限に生かしたオーバーテイクは、ERSだとかDRSうんぬんというより、シルバーストンにふさわしく、クラシックなレーシングテクニックを表すものだった。

 そのロズベルグが突然ペースを落としたのは46周目──ベイルのブレーキングでギヤが7速にスタックしてしまったのだ。この際、エンジニアがピットから与えた指示が無線制限規則に抵触したとして審議対象になり、レース終了後3時間以上経ってロズベルグには「10秒加算」のペナルティが科せられた。フェルスタッペンと競って取り戻した2位は、ゴール後の裁定で3位に降格されたのだ。

 ドライバーからピットへの通信内容は自由なので、ペナルティ対象となったのはエンジニアの発言である。審議に時間がかかったわりにFIAの発表は詳細に乏しいが「シャシー・デフォルト0 - 1」という最初の指示は「オンボードのソフトウェアで検知されなかった機能ロスを最小限にとどめるため」という、許可された通信に含まれると思われる。問題となったのは、その後の「7速ギアを回避せよ」「再びスタックするとしたら、7速からダウンシフトするときだ」「だから、できるだけ7速を避けて、症状が再発したらダウンシフトするんだ」というくだり──「でも、さっきは7速からダウンシフトできなかったんだよ」というニコの返答を聞くと、少し不可解な会話でもある。

 ひとつ言えるのは、今年から強化された無線制限が馬鹿げたルールであること。スチュワードが2時間以上かけて討議する無線内容の是非を、レース中のエンジニアが数秒で判断できるわけがない。過度にルールを複雑にして話をややこしくする、今日のF1の短所の典型だ。
 その反面として言えるのは、そもそも、ドライバーが“エンジニアの操り人形”という印象を与えるとして不興を買った原因の大半は、メルセデスの無線にあるということ。パワーユニットが導入されて以来、そのモード設定からチームメイトの区間タイムまで、ピットから最も大量の指示を出したのはメルセデス──少なくともFOMがピックアップして中継放送で流したのはメルセデスの無線だった。彼らはそれが“新時代”のF1をクールに象徴するものだと捉えていたのだろうが、ファンの気持ちはそうじゃない。これは、メルセデスも理解しなくてはならない点だ。

 人々の琴線に触れるのは、1991年のサンパウロ、レース終盤を6速だけで走って母国初優勝を飾ったアイルトン・セナのような存在だ。ライバルに気づかれることを恐れてピットにさえトラブルを告げなかったセナは、孤高の戦士だった。ウォーキングのファクトリーに戻ってきたときにもギヤが6速に入ったままだと聞いて、私たちの心は説明しようのない感動に包まれた──恐ろしいほどレースは深淵で、機械にさえ魂が入っていた。

 無線の話題は今後もしばらく続くだろうけれど、ファンの答えは、はっきり出ている。「ドライビングをコーチするのは禁止。システム回復の手順を伝えるのはOK」という規則で十分──詳細はスポーツ精神で汲み取ってほしい。無線の乱用を避けたいなら「Chassis default 0-1. Avoid 7th gear」はサインボードでのみ示せるというルールにすればいい。

スピンを喫したものの、ぎりぎりで接触を避けたアロンソ。実らずとも熱い走り
Sutton



 無線事件より何よりも、シルバーストンの華はトリッキーなコンディションで走ったドライバーたちの技だった。ターン1で続発したコースアウトの理由を、フェルスタッペンは、こんなふうに説明する。

「みんなが濡れた路面に触れて走ると、水煙が左側に飛ぶことがある。だから前のラップとまったく同じラインでアプローチしても、突然、タイヤが水を拾ってしまう。スプレーが通常のレーシングラインに飛んできてしまうんだ。ルイスと同じラップに僕がコースアウトしたのも、そのせいだと思う」

 いちばん迫力があったのは、コーナー入口でターンインする瞬間に水を拾ってしまったフェルナンド・アロンソのスピン。並のドライバーならクラッシュしてしまうところ、アスファルト舗装からグラベルに入ってマシンの回転が止まったあと、ドリフトしながらコントロールしてウォール沿いにぴったり路上駐車したのは秒速の神業だった。

 ただし、アロンソをそんな状態に追い込んだのはピット作戦の失敗が遠因──濡れた路面が残るコースでは、走行ラインが1本になってしまう。ストレートで抜けるマシンなら苦労はないけれど、コーナー勝負を課せられるマシンにとってライン外が濡れているのは解決が不可能な難題。ウエット路面が苦手なウイリアムズはペースが遅くてもストレートが速く、中団チームの多くがウイリアムズ(とりわけフェリペ・マッサ)の後ろで抑えられ、チャンスを失った。10位スタートで6位ゴールを飾ったセルジオ・ペレスも、7位スタートから2回のスピンを喫しても8位ゴールを果たしたカルロス・サインツJr.も、最初のタイヤ交換でウイリアムズから“解放”されていたことが成績につながった。

 それでもマッサを攻めるアロンソのドライビングを目にしたことは幸福。とりわけ20周目のウェリントンストレート、右の前後輪をグリーンに落としながらウイリアムズに並んだ雄姿は、この2年間ファンが待ち望んだ“アロンソらしい勇気”の一片。

 こんなシーンが満載のレースなら、無線なんて聞こえなくていいとも思う。サーキットに集まったファンは交信の詳細など知らなくとも全身でレースを受け止めて、最後はみんながハッピーだ。




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1位マックス・フェルスタッペン110
2位セルジオ・ペレス85
3位シャルル・ルクレール76
4位カルロス・サインツ69
5位ランド・ノリス58
6位オスカー・ピアストリ38
7位ジョージ・ラッセル33
8位フェルナンド・アロンソ31
9位ルイス・ハミルトン19
10位ランス・ストロール9

チームランキング

※中国GP終了時点
1位オラクル・レッドブル・レーシング195
2位スクーデリア・フェラーリ151
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム96
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム52
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム40
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム7
7位マネーグラム・ハースF1チーム5
8位ウイリアムズ・レーシング0
9位BWTアルピーヌF1チーム0
10位ステークF1チーム・キック・ザウバー0

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