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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第16回】難しいタイヤ交換のタイミングと、50周を走り切るために必要だったリスク

2020年11月26日

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。コロナ禍で急きょカレンダーに加わった第14戦トルコGPは、開催前に路面を再舗装したこともあって、初日からまったくグリップのない路面で走ることになった。雨も降り非常に難しい状況で、ハースはこの週末をどう戦ったのか。そして様々に別れたタイヤ戦略を、小松エンジニアはどう分析しているのか。現場の事情をお届けします。


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2020年F1第14戦トルコGP
#8 ロマン・グロージャン 予選19番手/決勝リタイア
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝17位


 9年ぶりに開催されたトルコGPは、グランプリ開催の直前にイスタンブール・パークの路面が再舗装されたこともあって初日から大変でした。ポルティマオ(第12戦ポルトガルGP)でも直前の再舗装でグリップ不足に苦しみましたが、イスタンブールは再舗装からF1開催までまったく使用されていなかったので、さらに路面は安定していませんでした。急きょ開催が決まったのでこうなってしまったんでしょうね。


 また、以前レースをしていた際には週末を通してコースがどんどんバンピーになってくるという問題がありました。これは土地自体のせいなのでしょうが、木曜日にサーキットを歩いた時にも雨は降っていなかったのにも関わらず、ランオフエリアの芝生から水がコース上に流れ出てしまっており、地面はずいぶん飽和状態なのだなと思いました。

ロマン・グロージャン&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)
2020年F1第14戦トルコGP ロマン・グロージャン&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)


 金曜日のFP1も雨自体は降っていませんでしたが、サーキットを洗ったあとの水がところどころで乾いておらず、濡れているところは本当にツルツルでした。走り始めるとやはりまったくグリップが無く、気温も低いので濡れているピットストレートやピットエントリー、ターン5と6の外側などもなかなか乾かず大変でした。ここまでのグリップ不足に苦しんだのはオースティンの初年度(2012年)以来でしょうか。


 イスタンブール・パークはバックストレートが抜きどころになるので、通常はダウンフォースを少し削ってでも最高速を伸ばせるようにセッティングします。でもFP1で走り出してみるとあまりのグリップの低さで、そのようなセッティングでは全然ダメだということがわかり、セッション終了後にはリヤウイングを取り替えて、空気抵抗も増えるけれどよりダウンフォースをつけてグリップを稼ぐセッティングに変更しました。


 しかし、それでもまだダメだったので、最終的には金曜の夜にモナコGPと同じレベルのダウンフォースをつけました。とにかくグリップ重視の方向にセットアップをふってなんとかタイヤを機能させようとしたのです。


 ここは通常のドライコンディションで走るとかなりタイヤに負荷がかかり、とにかく右フロントと右リヤに厳しいサーキットです。ターン8が有名ですが、シーズンを通じてこれだけタイヤに厳しいコーナーはありません。ですからピレリとしては、タイヤがタレすぎてしまうことを避けるために硬い組み合わせ(C1〜C3)を選択したのでしょう。


 でも開催時期のことを考えれば、少なくともハードタイヤを3セット持ってくる必要はなかったのではないかと思います。というのもこのレースではハードが1セットしか必要ないと予想されたので(たとえ通常の路面状況であったとしても)、他の2セットのハードタイヤを金曜に使うことになるからです。しかし、この路面状況ではハードタイヤはまったく機能せず、ミディアムタイヤより数秒遅く使い物になりませんでした。

ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第14戦トルコGP ロマン・グロージャン(ハース)

■難コンディションで“ふたつの誤り”が招いた34周目のピットイン

 予選と決勝は共にウエットコンディションになりました。日曜日はレース中に大雨が降るという予報はありませんでしたが、レース前の雨でコース上には結構水が溜まっていました。路面が乾くのに時間がかかることやグリップレベルの低さも考えて、レースはフルウエットタイヤでスタートすることにしました。


 レース開始後、インターミディエイトタイヤに交換するタイミングは、インターでスタートしたジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)のタイムや、6周目にインターに履き替えたシャルル・ルクレール(フェラーリ)のセクタータイムを見て決めました。8周目にインターに履き替えたケビンは、前に誰もいない状況で比較的良いペースで走ることができ、11番手とポイントを獲れる可能性のあるところにもいたので、うまくレースを進められていたと思います。


 レース中盤の30周目くらいには、このレースでスリックタイヤで走れるチャンスはないだろうと思い始めました。というのもドライのラインが見えてきていても、ライン以外は濡れている所がたくさんあって、そこがどれくらいグリップが低いかもわかっていたからです。


 同時にこの1セットのインターで最後まで走り切ることはほぼ無理だろうとも考えていました。8周目からインターを履いているウチの2台のタイヤは摩耗が進んでいましたし、もっと水の多かったスタートからインターで走っていたラッセルが32周目にピットインしたのを見ても、50周を走り切れるとは思えず、30周すぎくらいでダメになると考えていました。ですので、どのタイミングでタイヤを変えようかということを考えてレースをしていたのです。


 またレース後半のかなり路面が乾いた状況で新品のインターを履けばオーバーヒートしてあまり保たないかもしれないと思っていたので、少なくとも残り20周くらいのところまでは1セット目のインターで引っ張りたいと考えていました。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第14戦トルコGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 しかしラッセルのアウトラップや、それより前の30周目にピットインしたルクレールのタイムなどをみて、新品のインターが良さそうだったのでラッセルにアンダーカットされるのを防ぐため、34周目にピットインしたのですが、これが間違いでした。


 レース中は“予測”ラップタイムを使ってピットインの判断をしているのですが、この時のラッセルの予測タイムはケビンよりも3秒ほど速かったのです。つまりあと1周ケビンのピットインを遅らせるとアンダーカットされてしまう可能性が高くなります。


 しかし実際ラッセルはそこまで速くなかったのです。今回のレースのようにコンディションが不安定な時は、予測データの精度も落ちます。そこをきちんと考慮せずにケビンをピットインさせてしまいました。もしもっと正確に状況を把握できていれば、急いでピットインをする必要はなく、摩耗したインターでどこまでいけるかを見極める機会をつくれたはずです。これはこのレースの大きな反省点のひとつです。

■1ストップで走り切ることができたトルコGP。重要なのは「各々がどんなリスクを負うか」

 今回のレースではルイス・ハミルトン(メルセデス)やセルジオ・ペレス(レーシングポイント)、ダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)が1ストップで走り切りました。ケビンが最後まで1ストップで走り切ることが可能だったかどうかは自信を持って言えませんが、重要なのは、各々が置かれた状況でどういうリスクをとるかをちきちんと見極めるいうことです。


 たとえば、ケビンが2回目のピットストップをする前に走っていたのは11番手。何か起これば入賞できる位置なので、その場合は正攻法で走ります。もしケビンがその状況で16番手(当時クビアトが走っていた位置)だったら、逆にギャンブルをして走り続け、セーフティカーが出動する可能性に賭けたでしょう。たとえ最後までいけると思っていなくても、途中でピットストップをしたらその時点で入賞するチャンスがなくなってしまうからです。


 2位に入賞したペレスはチームメイトのランス・ストロールが新品のインターで苦しんでいたのを見て、ピットインせずに走りましたが、タイムは落ちていました。凄かったのはやはり優勝したハミルトンです。ペレスを抜いて先頭に立つと素晴らしいタイムで走り続け、レース終盤にはペレスに対してピットストップ分のギャップを築きました。それも出来る限りこのタイヤで引っ張るため、タイヤを労りながら走ってです。

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2020年F1第14戦トルコGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)


 仮に残り10周でタイヤが保たなくなって、もう1回ピットインせざるを得なくなったとしても、ペレスのすぐ後ろでコースに戻ることになるので、すぐに抜き返したと思います。メルセデスはタイヤの摩耗を懸念してピットストップ分のギャップができた後はハミルトンをピットインさせようとしていましたが、彼は自分でピットレーンの入り口が濡れているであろうことなどを考慮して、ピットインを避けました。


 あのタイヤを最後までしっかりとマネージメントしながらミスなく素晴らしいペースで走り、最後はピットレーンの路面状況まで考えるなど、トータルで完璧なレースをしたと思います。さすがとしか言いようがありませんし、7度目のタイトルを決めるのにホントに見合った勝ち方をしました。


 ちなみにレース後のハミルトンのタイヤは、溝がまったく無くなっていましたよね。こんなタイヤでよく走れたなと思う人も多いかと思います。しかし、もともと溝は排水のためのものなので、路面が湿っているだけで水はけを必要としない状況であれば、溝は必要ありません。


 逆に溝がなくったインターは、ゴムのブロックが動き過ぎて過熱することも抑えられますし、ゴム自体はドライタイヤよりも柔らかいので、今回のレース終盤のような状況にはとても適していました。もちろん、摩耗しすぎてベルトが見えるようになってしまっては危ないですが、ハミルトンはそこら辺を良く読み切って走りました。改めて彼の凄さを感じられたレースでした。

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2020年F1第14戦トルコGP レース後、パルクフェルメに止められたルイス・ハミルトン(メルセデス)のマシン。50周を走り切った右リヤタイヤは完全に溝がなくなっている



(Ayao Komatsu)




レース

4/19(金) フリー走行 結果 / レポート
スプリント予選 16:30〜17:14
4/20(土) スプリント 12:00〜13:00
予選 16:00〜
4/21(日) 決勝 16:00〜


ドライバーズランキング

※日本GP終了時点
1位マックス・フェルスタッペン77
2位セルジオ・ペレス64
3位シャルル・ルクレール59
4位カルロス・サインツ55
5位ランド・ノリス37
6位オスカー・ピアストリ32
7位ジョージ・ラッセル24
8位フェルナンド・アロンソ24
9位ルイス・ハミルトン10
10位ランス・ストロール9

チームランキング

※日本GP終了時点
1位オラクル・レッドブル・レーシング141
2位スクーデリア・フェラーリ120
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム69
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム34
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム33
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム7
7位マネーグラム・ハースF1チーム4
8位ウイリアムズ・レーシング0
9位ステークF1チーム・キック・ザウバー0
10位BWTアルピーヌF1チーム0

レースカレンダー

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