亡きラウダにモナコGPの勝利を捧げたルイス・ハミルトン

【】ハミルトン、ドライバー人生で大きな支えとなった故ニキ・ラウダに捧げる勝利【今宮純のF1モナコGP分析】

5月28日

 2019年F1第6戦モナコGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンがポール・トゥ・ウィンを達成し、20日に逝去したニキ・ラウダに勝利を捧げた。F1ジャーナリストの今宮純氏がラウダの追悼を込め、1970年代のラウダの活躍と週末のモナコGPを振り返る。
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 亡きラウダはモナコGPで2勝している。ハミルトンもこれまで同じ2勝だった。20日に恩人であるニキが逝去、沈痛な面持ちでのぞんだ週末にポール・トゥー・ウィン。自身のこの3勝目を彼に捧げた――。

 曇天つづきのモンテカルロ。今にも泣きだしそうな空の下で“ラウダ・カラー”の赤がひときわ目立った。思い出さずにはいられない追憶の1970年代に、ラウダは74/75/76年とPPを重ねた。

メルセデスF1がニキ・ラウダを追悼
メルセデスF1がニキ・ラウダを追悼

 75年はウェットからドライに変わるコンディションで2時間ルールが適用され、75周レースを2.78秒差で勝ちぬいた。1955年モーリス・トランティニアン(フェラーリ)以来の歴史的な、モナコGP「フェラーリ20年ぶりの勝利」を成し遂げた。

 開幕から好調だった76年には第6戦モナコGPで早くも4勝目。夏の第10戦ドイツGPの炎上事故負傷が起きる前、すでにラウダが『タイトル確定』とみられ、ライバルのジェームス・ハント(マクラーレン)は、チャンピオンシップを諦めかけていたのだが、最終的にわずか1ポイント差で敗れることになってしまった。

 ラウダらしい勝負強さが光ったのは77年のモナコGPだ。予選6番手から追い上げて0.89秒差の2位、ウルフ・チームの勝者ジョディー・シェクターとのマッチレースがファンを沸かせた。

 78年のモナコGPでは、激しいデッドヒートを展開しカルロス・ロイテマン(フェラーリ)と接触、さらにタイヤ・パンクチャーにより緊急ピットイン。6番手まで落ちながら毎周コースレコードを更新し2位へ、ブラバム・チーム移籍5戦目のことだ。

 こうした数々の『モナコの闘い』をラウダはハミルトンに話したか、教えたか、自慢したか(?)。ユーモア・センスがありストレートにものをいう人柄だけに、F1の神髄を伝授したことだろう。

 2012年にメルセデスのノンエグゼクティブ・チェアマンに就任してからも、その肩書以上のことを彼は行った。

 それはハミルトン、ニコ・ロズベルグ、バルテリ・ボッタスたちへの<コーチング>だ。

 チャンピオン経験者が諭す『レース人生物語』は彼らにとって、とても貴重なものだったに違いない。五冠王らしくふるまう今のルイス、今年躍進中のバルテリにとってラウダは『もう一人の父親』のような存在にほかならない。

 F1世界王者としては75年、77年、84年と“3冠”を達成したラウダだ。これに加え、いくつものタイトルをメルセデス・チームにもたらした(と言えるのではないか)。合掌ーー。

■4年前から4.932秒もタイムが向上しているモナコの予選

 今年もまたコースの三分の二が新舗装され、センターラインが描かれていないところが目立った。

 以前、GP開催後に市内バスに乗ってコースをほぼ1周したとき、目線が高くなるから日常の街並みがとても新鮮に映った(余談だが車内には通学の子供たちがいて、シャルル・ルクレールが「少年時代にバスで通っていた」というエピソードを聞いて思い出した)。

メルセデスF1がニキ・ラウダを追悼
メルセデスF1がニキ・ラウダを追悼


メルセデスF1がニキ・ラウダを追悼
メルセデスF1がニキ・ラウダを追悼

 モナコGP土曜予選Q3、ハミルトン2度目のPPは1分10秒166(平均速度171.211KMH)。4年前最初のPPは1分15秒098(平均速度159.966KMH)。

 実に4.932秒も短縮し10KMH以上もアップ。個人的にこの強烈な速さの進化を実感したのは“タバコ・コーナー(ターン12)”だ。シケインを出てから左折するここが突き当りの“壁”のよう。通過速度180KMHオーバー(!)、秒速50MのスピードこそF1のすさまじさ(もし観戦に行くならこのエリアをすすめます)。

 レース終盤、ミディアムタイヤをいたわるしかないリーダーは1分17秒台ペースで、2番手マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)を引き連れたまま逃げた。自己ベストタイムは中盤の1分16秒167、ちょうど6.001秒もスローなレースペース。

 再三「このタイヤはもうダメ、終わっている」と無線で言いながらも6秒落ちですべてコントロール。最終盤にシケインで突っかかって来るフェルスタッペンを、まるで予期していたようにぎりぎりセーフの”接触タッチ“でかわした荒業……。

 もしラウダが昨年までのようにピットガレージで見守っていたなら、隣にいるメルセデス代表のトト・ウォルフとにんまり笑いあっただろう。

 もう叶わないが表彰台セレモニーにエグゼクティブ・チェアマンを上げて欲しかった。現役時代に「スーパーラット」と呼ばれていたニキが、シャンパンまみれになるのを僕は見てみたかった。



(Jun Imamiya)