イタリアのトロロッソF1チームのファクトリーを案内するフランツ・トスト代表

【】【特別インタビュー】トロロッソ代表フランツ・トスト(2)感銘を受けたホンダの開発施設と素早いレスポンス

3月18日

 来週末の第1戦オーストラリアGPから、いよいよ、ホンダとトロロッソの新しい挑戦が幕を開ける。ここで改めてお伝えしたい、トロロッソというチームの詳細とホンダとの関係。チームの代表、フランツ・トストに話を聞く第2回目。日本で行ったエンジニアミーティングの印象、そしてドライバーのふたりについて聞いた。

──モータースポーツの世界でホンダの名前を耳にしたとき、あなたの脳裏に浮かぶのはどういったイメージですか? ホンダという企業に関するイメージと、あなたの印象を聞かせてください。

「まず私が思い浮かべるのは、彼らの最初のF1マシンだ。今日、そのモデルカーを受け取ったよ。子供のころの私はいつもモータースポーツ誌や本を読みふけっていて、頭のなかにすべてを叩き込んでいた。ときには学校にいるときでさえ、そうした雑誌や本を読んでいたものだから、先生たちはあまり私のことを良く思っていなかったけれど、そんなことは大した問題じゃない」

「当時のことはよく覚えているし、(ホンダが)ウイリアムズやマクラーレンとともに大きな成功を収め、素晴らしい勝利をあげていた。当時はカワモト(川本信彦、後のホンダ第4代社長)という人がエンジニアのトップだったことも覚えている。それから彼らの哲学が、モータースポーツを介して若いエンジニアたちを育成してきたこともね」

「あの時代にホンダが持っていた哲学は、かなり良いものだったと考えている。現在はすべての要素が複雑化しているので、エンジニアをいつでも変更するというわけにもいかないし、以前よりも少し難しいのだろう。それでもホンダはこの状況を処理する方法を知っているし、ホンダにはF1でも最高レベルの素晴らしいインフラがある」

「サクラ(HRD Sakura/本田技術研究所)を見たことのある者なら、信じられない設備と言うだろう。彼らはダイナモなども含め、何でも持っている。適切なテストを行う機材だけでなく、そのための技術的な知識もあると信じている。つまり、あとは時間の問題だ。F1で成功するだけの資金も持ち合わせている」

──モータースポーツはホンダのDNAでもあります。これまでに経営陣と行ってきたミーティングのなかで、『モータースポーツ活動の傍らに市販車を作っているレーシングカンパニー』と仕事をしているという感触を受けたことはありますか?

「そういうこともあるね。ホンダエンジニアたちのモチベーションは非常に高く、12月初旬にSakuraでミーティングを開いた際には、午前中に議論したことに対する提案を2、3時間後にホンダが提出してきて、こちらのエンジニアが驚くということがあった。そして今では、私が午後にメールを送信すると、翌朝に出勤したころには返事が届いている。Sakuraには非常に良い精神が宿っているのだ。一度成功を収めたら、この部分はさらに高まると考えている。多くの人にとって、成功体験は最高の動機づけになるからね」

──カスタマーとしてパワーユニット/エンジンのパッケージを買ってマシンに搭載するということではなく、ワークスとしてパートナーを持つということはトロロッソをどのように変えるでしょうか?

「大きく変えるだろうし、そのことについてはとても誇りに思っている。こうしたことは私たとのチーム史上初めてのことだ。こちらのエンジニアとホンダのエンジニアが『この位置に燃料タンクが入るのなら、シャシー的に見て、このパイプはこう通ったほうがいいんじゃないか』なんて話をしていたりする。ホンダは私たちのパートナーなのだから、マシンのすべてを最適化するプロセスは、非常に大切なことだ」

「エンジンやパワーユニットをカスタマーとして得ていたころは、それをうまく載せられても、載せられなかったとしても、それは私たち自身の問題だった。つまり、今回のことは私たちにとってまったく新しい経験なのだ。競争力のあるマシンを手にして、成功を収められるシーズンにしたいと願っている」

──レッドブルのオーナー、ディートリッヒ・マテシッツがこのチームをスタートさせたときの目標は、将来的にレッドブルに乗るドライバーの育成だったはずですが、ホンダとのパートナーシップのもとでの目標は変わりますか?

「基本的な哲学は変わっていない。見てもらえれば分かるように、私たちは今でもレッドブルのドライバーを抱えている。どちらのドライバーも今年が初めてのF1フルシーズンになるので、彼らを教育しているところだ。昨シーズン終盤の3戦か4戦のことは忘れてもらってかまわない。(ふたりのドライバーを育成することは)私たちのチームが抱えてきた哲学に、100パーセント当てはまる」

「これからはホンダとともに、チームの全体的なパフォーマンス向上を目指していく。空力やメカニカルパフォーマンスも含めて、手を取り合って良いパッケージのマシンを手にすることができれば、シーズン中に進化が見られると確信している。何もかもが新しいことなのでシーズン序盤がどうなるかは分からないが、ホンダの新エンジンがどれほどのものなのかは見ることができるだろう。それでも私たちは、シーズンを成功に導くために必要な要素のすべてを、協力して注ぎ込んできたと思っている」

──このトロロッソのファクトリーがあるイタリアのファエンツァでは、物理的にこれまで以上に大きな構造とホンダとのパートナーシップを抱えています。チームの最大の強みと、ホンダの一番の強みはどういったことだと考えていますか?

「トロロッソの強みは、私たちがまだ小さなチームであり、柔軟であるということだ。すでに私たちがホンダとやってきた仕事にも、他のチームにとってはもっと複雑だっただろうというものもある。決定を下すためのプロセスも少なく、カーボン製造の面でも自立していて知識もある」

「ホンダについては、今回のことは彼らにとっても新たなスタートなのだ。過去にはたしかにパートナーとのトラブルもあったが、私たちとならそんなことは起こらない。何が起きようとも問題にはならないし、パートナーを批判はしない。けれども私たちは成功するのだから、心配はいらないよ。問題はひとつもない」

──ホンダの設備とレスポンスの早さに感銘を受けたという話がありましたが、企業として3年間苦労してきたホンダは、今回のパートナーシップで実力を証明すべき時期にあると考えていますか?

「F1では常に進化を続けなければならない。立ち止まったら負けてしまうのだから、立ち止まっている暇などない。トロロッソは能力を証明しなければならないし、ホンダもまた、自分たちが改善していくということを分かっている。けれどもこの場で、どこを改善していくのかを話す気はない。トロロッソはすべての領域で、いつも進化し続けなければならない。ホンダも同じだ」

──これまで、新車を発表するたびにコンストラクターズ選手権5位という目標を掲げてきました。今シーズンも同じ目標を設定しますか? それとも開幕後の展開を見守っていきますか?

「まず、私たちはまったく新しいパッケージでどれだけのポジションにつけられるかを確認しなければならないので、どのような目標も設定しない。マシン、エンジン、ドライバー、タイヤと何もかもが一新されることになり、新車発表の段階では疑問点も数多くあるので、目標は立てないことにする。もちろんトロロッソの目標は(コンストラクターズ選手権)5位以内を維持することだが、もしも5位を上回っても驚きはしないな! けれども、信頼できる根拠もなく数字を掲げることは好きではないので、とりあえずは見守ることにしよう」

──ふたりのルーキーとともに開幕を迎えた経験は以前にもあるとのことでしたね。ピエール(ガスリー)とブレンドン(ハートレー)はドライバーとして、人間として、どのようなキャラクターを持っていると考えますか?

「ふたりとも良いキャラクターだ。彼らは協力して仕事に取り組んでいくだろう。結局、成功を収めるには互いに力を合わせ、チームと緊密に連携して仕事にあたるしかないということを彼らは知っている。どちらも、そうしたことが理解できるほどに賢く、経験豊富だ。頭で考えるだけでなく行動にも移せるだろう」

「スピードについて言えば、ふたりともとても良いものを持っているし、高いスキルを備えている。ガスリーはGP2でチャンピオンを勝ち取り、昨シーズンは日本でスーパーフォーミュラに出場した。最終戦が台風でキャンセルとなったため、(トップから)0.5ポイント差で(ランキング)2位となった」

「彼はF1マシンに乗っているときにも非常に速い。ブレンドンも同様で、昔トロロッソにいた頃よりも随分と成熟した。何年も前に、彼が私たちと一緒に過ごしたときのことを覚えているよ。当時の彼はワールドシリーズ・バイ・ルノーにも参戦していて、予選で素晴らしいアタックを見せることがあった。彼には天性のスピードがあり、そのことをポルシェで証明してきた。でなければ、ル・マン24時間や(WECの)タイトルを勝ち取ることはできない」

「ドライバーの面から見ても私たちは良い状態にあるのだが、当然ながら彼らが走ったことのないコースでもレースをすることになる。その場合には時間がかかるだろうが、彼らは私たちの強みでもあると考えている」

──それぞれのドライバーについて伺います。ピエールはストフェル・バンドーンと同じように、日本のスーパーフォーミュラで1シーズンを過ごしました。GP2にはなくて、日本のスーパーフォーミュラには存在する、F1への準備というのはどのようなものだったのでしょうか。

「彼はGP2でチャンピオンを獲得したが、我々のシートには空きがなかったので日本に行かなければならなかった。個人的には、レースのトレーニングの場として日本は素晴らしいと思っている。知ってのとおり、私は日本に1年間住んだことがあるし(ラルフ・シューマッハーのマネージャー時代)、そのときの生活を気に入っていた。異なる特性のレーシングコースが多くあり、たくさんのレースから学ぶことができる。それにヨーロッパから離れるというのも良いことだ。父親、母親、家族、そういったものから離れて自立して戦わなければならない」

「日本人ドライバーの何人かは少し年齢が高いけれど、彼らは非常に速く、経験が豊富だ。だからこそピエールにとっては本当に良い学習の場となり、準備を整えることができた。ピエールが確認したところ、鈴鹿でのラップタイムをF1とスーパーフォーミュラとで比較しても大差はなかったという。スーパーフォーミュラのマシンは軽く、特にコーナリングはすごく良いフィーリングだと聞いている。彼は日本にいたおかげで多くを学び、かなり良い教育を受けたようだ」

──過去にも(セバスチャン)ブエミと(ハイメ)アルグエルスアリ、(マックス)フェルスタッペンと(カルロス)サインツJr.という組み合わせで、ふたりのドライバーが両方ともルーキーだということがありました。成長にともなう痛みはどのようなものが予想されるでしょうか? また、彼らが腕を挙げるまでにどの程度の時間を見込んでいますか?

「私は常に猶予期間は3年間だと言い続けている。なぜかって? ドライバーにとってF1での1年目は、あっという間だからだ。F1にやってきた彼らはメルボルンを知らない。バーレーンは知っているかもしれないが、中国は知らない。多くのコースが未経験で、それを自分自身で学んでいかなければならないのだ」

「運転の仕方を勉強するのだと言ってるわけではない。正しい縁石の使い方や、予選や決勝でどれだけ(縁石に)乗り上げていいのか、太陽が出ているときにはどのくらいグリップが変わるのか、風はどうだ、というようなことだ。たとえばバルセロナのターン9などのように、風がマシンの挙動に大きく影響するコーナーもある。ドライバーに教えたり、伝えたりすることはできるが、何よりまずは自分で経験しなければならない。だから1年目はあっという間だというのだ。彼らは基礎的な部分を学んでいる」

「2年目になると、彼らも何もかもに慣れてくる。すべてをより良く理解できるようにはなるが、力を発揮するようになるのは3年目だ。それまでにはマシンやチームから最大の力を引き出すにはどうすればいいのかや、重要なことだけれどライバルについてとか、レースについても分かるようになってくる。そうなるとリアクションが変わってくるんだ。ドライバー個人を評価する前に3シーズンが必要だというのが、私の意見だ」

第3回目につづく



(autosport)